133 本能のままに。 ページ18
side.A
松潤が翔ちゃんの薬を持って二階に上がったのを見送り視線をそのまま大ちゃんに移す。
俺をしっかりと捉える事をしない大ちゃんの目は色んな感情が混ざっているように見える。
そんな苦しさを少しでも早く分けて欲しくて、彼の手を握ったまま目を閉じた。
「……、ん、ごめ…、ん」
目を閉じると直ぐに小さく謝る大ちゃんの声が聞こえて、慌てて目を開ける。
今度はしっかりと俺の目を捉えているが、その目は自己嫌悪に揺れていた。
「なんで…どうして大ちゃんが謝るの？」
「俺、最低だ」
そう言って俯いたっきり、また合わなくなってしまった目線。
「翔くんの事、苦しめてんのは俺だったんだ。そんな事ずっと前から分かってた筈なのに、俺…忘れてたのかもしんねぇ」
「何言ってんの！」
「だって、そうだろ？俺が翔くんにトラウマを植え付けたも同然だろ？」
「そんな事…」
感情に任せて怒りを露わにする大ちゃんの姿を初めて目の当たりにした俺は完全に萎縮してしまった。
そして、それを大ちゃんが直ぐに察知して「わりぃ」と謝る。
話を聞いてあげなきゃいけないのに、楽にさせてあげなきゃいけないのに。
何やってたんだよ、俺。
「ごめんな、雅紀。俺が翔くんのお母さんに怒りを向けるのは筋違いってもんなんだよ…」
大ちゃんは肩に回していた俺の手をそっと振りほどいて起き上がろうとする。
まだまだフラフラな大ちゃんは起き上がった途端に顔を歪めて頭を抑える。
「まだ寝てなきゃ」
「俺の事はいいから。翔くんの事、頼むな」
大ちゃんのこの言葉で俺は全ての思考が停止した。何も冷静に考えられなくなった。
もう本能的に大ちゃんを抱き締めた。
「もっと自分に優しくしてよ。大ちゃんは自分に厳しすぎるんだよ…翔ちゃんの事、俺達の事ばっかり優先して、自分の事はいつも後回し」
「ま、さき」
「まだ分かんない？もう一人で苦しまないでよ、俺は大ちゃんがこうやって悩んでるのに助けられないのはもう嫌なんだよ」
自分の口からこんなにスラスラと言葉が出てくる事に驚きながらも、喋り続けている間に幾つかの涙が頬を流れた。
「…ぇ、…」
「あ、松潤」
大ちゃんのその声に振り返ると、ギョッとした顔を見せる松潤。
あ、俺の顔か。
でも、もう大丈夫だよ。ね？大ちゃん。
「松潤、ごめんな。翔くんにはちゃんと明日謝るから…」
「分かってるよ。腹減ったっしょ？」
松潤のその声に俺も大ちゃんも大きく頷いた。
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作者名：未翔
| 作成日時：2020年3月8日 20時
