129 拒絶と優しさ。 ページ2
side.S
生みの親と育ての親、どちらが大切なのか。
経済的理由から俺を手放す事しか出来ず、せめてもの救いとしてひまわり園の前に俺を置いた生みの親。
少なからず怯えていて、正直厄介者の俺を嫌な顔一つせず受け入れてくれた育ての親。
それぞれに俺の思い出はある。でも、俺にとって一番の幸せは智くんと出会えた事だ。
ふんわりとしたその空気が一緒に居る俺をも巻き込んでくれる。智くんはそんな温かい人だ。
「ねぇ、智くん」
「ん？」
俺の呼び掛けに顔を向ける訳ではなく早足で俺の前を歩き続ける。そんな冷たい対応は彼らしくない。
でも、そんな事を言う資格は俺にはない。
「ごめん、ね」
呼び掛けたものの次に何を話していいか分からなくなって、どんよりとしたその背中に謝罪をぶつけた。
するとさっきまで早足だったその動きが一瞬だけ止まった。それでも、また直ぐに歩き始めた。
もともと家から近いから道も分かるし、智くんを追い掛ける時間もほんの少しだけだ。
家に帰れば雅紀達が居る。だからこそ、この空気を知って心配を掛けたくない。でも智くんの性格からしてわざわざ演技する様な事はしないだろう。
「おかえり〜…って大ちゃん？」
雅紀の戸惑いの声と、「大丈夫？翔ちゃん」と俺の手を引っ張って優しくリビングに招き入れてくれるニノ。
そして、明らかに怒りを露わにして智くんを見ている潤。そんな視線を感じているはずの智くんは言葉を発する事もなく自室に帰って行った。
情けない事に今の俺には言葉を発する気もなく、全てを預ける様にニノの腕に抱かれていた。
「翔ちゃん、ちょっとお部屋で休もっか？今日はお出掛けしたし疲れたでしょ？」
俺が頷いたのを見て、ゆっくりと体を支えてもらいながら立ち上がって自室に戻る。
頭が追いつかず心も追いつかないというのは変な感覚で、横に居るニノも見えているはずなのにぼんやりとしていた。
やっとの事で部屋着に着替えてベッドに入る。
その間もニノはずっと傍に居てくれて、何も聞かずに優しく何度も頭を撫でてくれた。
「しょーちゃん、何も気にしないでいいから。今はちょっと寝よ。俺が近くに居るから」
その言葉に自分の目が覚めきっている事に気付かされる。俺のその反応を見たニノが立ち上がる。
「いや、ニノ…行かない、ここにいるって」
立ち上がったニノがもう帰って来ないように感じて怖くなってその手を引き止めたら情けない声が出た。
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作者名：未翔
| 作成日時：2020年3月8日 20時
