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「私たちを殺しても、金庫の中にある残骸を調べれば、美術品が盗まれたことはすぐに分かる。どうせ逃げられない！」
叫ぶ東海に向かい、
鴨志田は右手の人差し指を左右に振る。
「心配ご無用ですよ、社長。ちゃんとダミー用の美術品は隣の備品室に用意してあります。二束三文の絵画ばかりですけど、年代だけはそこにあるお宝と同じ頃に作られたものです。爆弾で粉々にすれば、本物と区別がつかないでしょう」
鴨志田の説明に東海は言葉を失った。
「本物の美術品を運び出した後、あなたとそちらの３人は身動きできないように縛って、偽物の美術品と爆弾と一緒に金庫室に入ってもらいます。つまりこういう話になる。テロリストは美術品の木箱の中に紛れ込ませて爆弾をあの金庫室にセットした。爆破予告を受けて私たちは避難したが、責任感の強い皆さんは金庫室に戻って美術品を運び出そうとする。しかしその時、不幸にも爆弾がさく裂してしまう」
鴨志田は朗々と語る。
東海は喘ぐような呼吸をしながら、鴨志田を指さした。
「ど、どうやって木箱に爆弾をセット出来たっていうんだ。警察は無能じゃない。きっといつかはお前たちが犯人だって突き止めるはずだ」
「ご心配ありがとうございます。けれどね、その頃には俺たちは日本にいないんですよ。他の国に行って、新しい名前で生活を始めています」
言葉を切った鴨志田は、
脇に立つ警備員に「おい」と声をかける。
「金庫を確認する。２人付いて来い。あとの奴は、猿渡と一緒にそいつらを縛り上げろ」
鴨志田は拳銃を懐に戻しながら、猿渡に一瞥をくれる。
猿渡は無言で頷いた。
鴨志田の胸には猿渡に対する感謝が湧き上がっていた。
猿渡がいたからこそ、こんなに大掛かりな計画を立てることが出来た。
これだけの大金が動く作戦では、
どこで裏切りが出るか分かったものではない。
しかし、猿渡だけは自分を裏切らない。
その確信が鴨志田に計画を進めさせた。
その気になれば、拳銃など何十丁でも用意できた。
しかし、今回の作戦で拳銃を持っているのは自分と猿渡だけだった。
他の者になど渡したら、いつ背後から撃たれるか分かったものではない。
あた、他に何とか信頼出来るといえば、倉田とかいう男かな。
鴨志田の頭に、右目元に傷のある男の顔が浮かぶ。
猿渡が連れて来たあのボクサー崩れの男は、いい働きをした。
猿渡に心酔し、どんな命令だろうが忠実にこなしてくれた。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
