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「……ちょうど今、社長の携帯にも同じ脅迫電話が掛かってきたところだ。猿渡所長、すぐに今いる人員で爆弾の捜索を行うんだ」
「既に行いました。
そして……爆弾らしきものを発見しました」
猿渡は声を掠れさせる。
なかなかいい演技じゃないか。
鴨志田は緩みそうになる表情に力を込めると、猿渡に詰め寄る。
「本当か？どこにあったんだ？」
「金庫室の隣の備品室です。見慣れない黒い箱が設置されていました」
「警察への通報は？」
「既にしました。けれど、爆弾処理班が到着するには１時間以上かかるそうです」
「１時間?!」
鴨志田は腕時計を見る。
「零時に爆発するんだぞ。間に合わないじゃないか！」
「鴨志田常務、どうすれば……」
東海が震える声で訊ねてくる。
鴨志田は唇を噛むと、数十秒黙り込んで悩む振りをした後、東海を見た。
「社長、美術品を避難させましょう。予告された爆破時間まで後40分ほどあります。十分に持ち出せます」
「でも、あの金庫ならどんな爆発にも耐えられるんじゃ……」
「確かに金庫の扉は耐えられるかもしれません。しかし、爆発によりこの建物自体が倒壊する可能性もあります。そうなると、金庫室も押し潰されてしまいます」
「倒壊?!そんな事が有りうるのか？」
「十分に有り得ます。
社長、迷っている時間はありません」
鴨志田は東海を急かす。
「常務の言う通りです、東海社長。あの美術品が破損すれば国際問題になります。それに人類の宝が失われてしまう」
中年のキュレーターは早口で言うと、隣に座る女を横目で見る。
「彼女も『早く美術品を運び出すように』と言っています」
「わ、分かりました。鴨志田君、行こう。所長、動ける職員を金庫室に向かわせてくれ」
「承知しました！」
猿渡が覇気のこもった声で言った。
鴨志田ら東海たちとともに応接室から出ようとする。
焦りすぎたのか、廊下に出たところで若いキュレーターが後ろからぶつかってきた。
振り返った鴨志田が睨みつけると、キュレーターは怯えた表情を浮かべて「すみません」と鴨志田のスーツを直そうとする。
「いいから」
鴨志田は乱暴にキュレーターの手を払う。
後ずさったキュレーターは、
今度は猿渡に背中からぶつかった。
こわばった顔で振り返ったキュレーターは、また謝りながらスーツを直そうとして猿渡に舌打ちされていた。
廊下を走り金庫室へと戻ると、
部屋には制服を着た５人の警備員がいた。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
