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ズボンのポケットから取り出したスマートフォンを、東海が顔の横に当てる。
「はい、東海ですが……はい？もう一度言ってくれ？……爆弾?!何のこと……？おい、いったいどういう……おい！」
東海は困惑の表情を浮かべる。
「どうしました、社長？」
中年のキュレーターが声をかけると、
東海はおずおずと口を開いた。
「いや、この施設に爆弾を仕掛けたって……深夜零時に爆発すると……」
「爆弾?!」
キュレーターの声が大きくなる。
「いや、きっといたずらだよ。爆弾なんてそんな……」
東海は笑い飛ばそうとするが、その顔は引きつっていた。
「社長、相手は名乗りませんでしたか？正確にはどんな事を言ってきたんですか？」
鴨志田はソファーから腰を浮かすと、東海の目を真っすぐに覗き込む。
その迫力に圧されたのか、東海は軽くのけぞった。
「たしか『真実の牙』とか……あと訳の分からないことを『資本主義に取り込まれた芸術など燃えて消えるべきだ』とか」
「『真実の牙』というのは、最近のビル爆破テロを行っていた組織です。いたずらではないかもしれない。社長、そいつは爆弾については何か言っていませんでしたか？」
「いや、その……見つけても絶対に動かすなと。動かしたり、解体しようとしたら建物ごと吹き飛ぶからって。あと、目的は美術品だけだから、すぐに職員全員を避難させるようにとも」
東海は早口で言う。
その隣では中年のキュレーターが女に耳打ちしていた。
青ざめた女はいきなり立ち上がると、鴨志田の理解できない言葉でまくし立て始めた。
おそらくフランス語なのだろう。
「社長、彼女はすぐに美術品を避難させるようにと言っています」
興奮する女を必死になだめながら、中年のキュレーターが声をあげる。
「いや、避難と言っても……もしかしたら、いたずらかもしれないし」
しどろもどろになった東海は、すがるような視線を鴨志田に向けてきた。
情けない男だ。
これくらいの事でパニックになりやがって。
鴨志田は冷めた視線を東海に浴びせる。
その時、勢いよく出入り口の扉が開いた。
「常務、大変です！」
応接室に飛び込んできた猿渡が声を張り上げる。
「いまは取り込み中だ！」
打ち合わせ通り、鴨志田は猿渡を一喝する。
「爆弾です！爆弾が仕掛けられているという脅迫電話が掛かってきました」
息を切らせながら猿渡が報告した内容に、東海と２人のキュレーターが目を見張る。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
