大野クリニックで祝杯をー淡雪の記憶ー４ (ページ41)

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勢いよく扉を開いて喫茶梓に入ると、奈美が両手で嵐丸を持ち上げながら、ダンスでもするかのようにくるくる回っていた。

この前、二宮が拝借した赤い首輪をつけた嵐丸は、露骨に迷惑そうな表情をしている。

「どうしたの？何かあったわけ？」

雅紀が声をかけると、
奈美は回るのをやめ、嵐丸を抱きしめる。

「いま、嵐丸の飼い主の山下さんから電話があってらハワイに住む娘さんが同居の提案をしてきたらしいんです。それで、可能なら嵐丸を可愛がってくれる新しい飼い主を見つけて欲しいって」

「ああ、その新しい飼い主に奈美ちゃんが立候補するってわけね」

「はい！嵐丸、今日からお前はうちの子だよ」

嵐丸が返事をするかのようにニャーと鳴き、それを見て櫻井が顔をしかめているのを眺めながら、二宮はカウンター席に腰掛ける。

「マスター。ココアちょうだい」

声をかけると、マスターはいつも通り無言でココアを作りはじめた。

二宮は何となしにスタッフたちを見回していく。

猫に怯えつつ、櫻井はいつ奈美に告白すればいいのか悩んでいる。

そんな雰囲気を察して、大野はソワソワしている。

奈美はなかなかアプローチを掛けてこない櫻井に少々焦れていて、相葉は櫻井と奈美をくっつけて、それをネタにからかいたいと思っている。

そして、松本はそんな相葉に呆れている。

ちなみに、嵐丸が執拗に櫻井を攻撃するのは、飼い主である奈美を取られるんじゃないかという不安を覚えているからだ。

顔を見るだけで(相手がネコでさえも)思考を読めるというこの能力。

これのせいでずっと居場所がなかった。

けれど、変人だらけのこのクリニック。
なぜかここは居心地いい。

マスターがココアの入ったカップをカウンターに置く。

「ありがとう、マスター」と礼を言うとら二宮は温かいココアを一口すすった。

口の中に広がる温かい甘みを堪能しながら、二宮が目を閉じる。

瞼の裏に、柔らかく微笑むはぐみが浮かんだ。

_____fin.