__ ページ5
・
東海が社長に就任して一年もすると、日本セキュリティ保障でのし上がる道が途切れたことを、鴨志田は気付かされた。
それからの３年間、鴨志田は自分の地位をどうすれば最大限に利用できるかだけを考えてきた。
多摩地区の責任者であるという立場を利用し、猿渡をこの羽村営業所の所長に据え、さらにユニバーサル警備時代からの子飼いの部下たちを、この営業所に集めていった。
今夜、金庫の監視業務に当たる警備員全員が、鴨志田の部下であり、そして共犯者だった。
環境を整えつつ、鴨志田はただひたすら待った。
この営業所の金庫に、これまでの苦労に見合うだけの『品物』が来ることを。
そして、とうとうそれはやってきた。
対面の席につく金髪の女が、
隣に座る中年のキュレーターに耳打ちする。
キュレーターは顔を上げて鴨志田を見た。
「えー彼女はこう仰っています。『今回運び込まれた美術品は世界的でも指折りのコレクションで、日本政府からの強い希望により貸し出されたものです。細心の注意をもって保管していただきたい』と」
「もちろんです」
鴨志田は鷹揚に頷く。
「来週始まる『大印象派展』まで、私どもが責任を持って保管させて頂きます」
フランスを中心とする欧米各国の美術館の協力を得て、未だかつてない規模で行われる『大印象派展』。
美術品が日本に到着してから会場となる美術館に搬送されるまでの間、その管理を日本セキュリティ保障が行うと知った時、鴨志田は心を決めた。
それらの美術品を退職金として頂こうと。
「それでは、今回保管して頂いている作品のリストです」
若いキュレーターが作者と作品の名が羅列された用紙を差し出す。
鴨志田はそこに並んでいる文字を見て、口元が緩みそうになる。
モネ、ドガ、ルノアール、ゴッホ……。
誰もが知っているような有名画家の名が並んでいた。
全て合わせれば、時価にして一千億円以上の価値があるだろう。
闇で流したとしても、
数百億円で売ることが出来るはずだ。
もうすぐこれらが俺のものになる。
すでに海外に持ち出すための密航船と、マカオから中国本土へと密売ルートに乗せるディーラーの手配は終わっている。
あとはあの金庫を開けて、美術品を奪い取るだけだ。
鴨志田は時間を確認する。
午後11時13分、そろそろ仕上げだ。
「では、タイムスケジュールを確認いたしましょう」
鴨志田がそう言った時、東海の腰辺りからバイブ音が響いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1025人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
