大野クリニックで祝杯をー淡雪の記憶ー４ (ページ39)

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大野が古手川と話し合った結果、下手に誤魔化すことなく、復讐のために鴨志田と手を組んで爆弾を作ったが、途中で我に返って止めようとし、その結果殺されかけたという事で話が落ち着いた。

ちなみにその後は、記憶喪失を起こし、名前も分からない状態で青山第一病院に入院していた事になっている。

その事を証明する偽のカルテも用意してあるし、青山第一病院の精神科医が間違いなく記憶喪失していたと証言してくれるように手筈も整えていた。

家族が死んだうえ殺されかけたという同情で、おそらく執行猶予付きの判決になるだろう。

古手川からの情報によると、逮捕された鴨志田は黙秘を続けているらしい。

しかし、一緒に逮捕された倉田や猿渡、その他の部下たちの多くが罪を認めているうえ、金庫内で自らの罪を告白している画像もあるので、間違いなく重い刑が科せられるという事だった。

例のごとく、古手川やクリニックが抱える多くの有力クライアントたちの尽力もあって、大野クリニックのスタッフたちの行動が表に出る事はなかった。

「それでは花本さん。参りましょうか？」

古手川が声をかける。

はぐみは頷くとベッドから下り、靴を履いて歩き出した。

古手川、はぐみ、そしてクリニックのスタッフたちは病室を出て、階段で１階まで下りる。

外に出ると、喫茶梓の前に覆面パトカーが止まっていた。

古手川がパトカーの後部ドアを開く。

はぐみは振り返り、
スタッフたちに向かって深々と頭を下げた。

「皆さん、本当にお世話になりました」

「元気でね、はぐみちゃん。赤ちゃんは俺に取り上げさせてね、約束だよ」

雅紀の言葉に、はぐみは嬉しそうに「はい」と答える。

昨日、雅紀が検査を行って、はぐみが確かに妊娠している事を確認していた。

雅紀に続き、スタッフの面々がはぐみに声をかけていく。

しかし、二宮はそっぽを向いたまま口を閉ざしていた。

「二宮先生……」

急に近くから声をかけられ、二宮は慌てて正面を向く。

いつの間にか、はぐみが目の前に近づいていた。

「みんな、行こう」

雅紀が大野たちを促し、喫茶梓の中に入っていく。

二宮とはぐみだけが外に残された。

古手川も気を利かせているつもりか、ニヤニヤ笑いながら助手席に入っていった。

「そ、それじゃあまあ、とりあえず元気で」

二宮は震える声で言う。

なぜかはぐみの顔を直視する事が出来なかった。

「私の顔、見てください」

柔らかい声がかけられる。