大野クリニックで祝杯をー淡雪の記憶ー４ (ページ38)

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エピローグページ38

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「いいかな。指を鳴らしたら君は目が覚めるよ」

指が鳴る小気味いい音が部屋に響く。

それと同時に、ベッドに横たわっていたはぐみの目が開いた。

「どう、はぐみちゃん？」

部屋の隅に控えていた雅紀が声をかける。

その傍に立つ大野、櫻井、松本、奈美もはぐみに視線を向けていた。

「はい、思い出しました……全部」

上体を起こしながらはぐみは微笑んだ。

「よかったぁ」

雅紀は胸の前で両手を合わせた。

「俺が治療したんだから当たり前でしょ」

二宮ははぐみの顔を覗き込む。

会ってからずっと浮かんでいた、記憶を失っていることに対する不安が消え去っていた。

なぜか胸に痛みが走る。

美術品の盗難を防ぎ、そして梅沢を爆死から救った翌々日の昼下がり、二宮は大野クリニックの病室ではぐみに催眠療法をかけていた。

まだ僅かに残っていた、はぐみの記憶で曖昧な部分を思い出させるために。

「これで俺の治療は終わり。はぐみさんは晴れて退院可能になりましたよ」

「ありがとうございます、皆さん……二宮先生」

はぐみに見つめられ、
二宮は思わず視線を逸らしてしまう。

「べつに俺は自分の仕事をしただけですよ。治療費は梅沢社長に請求するし。ああ、ちゃんと出頭する前に払ってもらわないとね」

爆弾から救われた梅沢は、3日間身辺整理をする時間をもらい、その後、警察に自主する事になっていた。

もしその約束を破れば、秘書と大野たちが告発する事になっているので、さすがに逃げたりはしないだろう。

ちなみに、はぐみに拉致され、爆弾を仕掛けられた事は黙っているということで話はついている。

二宮は2日前の梅沢の表情を思い出す。

完全に怯えきっていたあの顔を見れば、まず約束を破ることはないだろう。

「それじゃあ、はぐみさん。そろそろ……」

大野が声をかけると、
はぐみは笑みを浮かべたまま頷いた。

大野が扉を開く。

その先には、ヨレヨレのコートを着た中年刑事が立っていた。

「どうもどうも。えっと、花本はぐみさんですね。初めまして。私、古手川と申します。詳しい事は大野先生から伺っております」

古手川は首をすくめるようにしながら部屋に入ってきた。

いかに死人が出なかったとはいえ、はぐみが作った爆弾でビルが爆破されたのは間違いない。

それをなかった事にすることは出来なかった。