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「家族を失った怒りで我を失っていた君は、守るべき家族がまだ居ることに気づき、正気に戻った。そして鴨志田たちを止めようとして、その結果、頭を殴られて川に落とされたんだよ」
「そんな……そんなこと……」
声を震わせるはぐみに、二宮は近づいていく。
はぐみははっと顔を強ばらせた。
「大丈夫、心配しないで」
はぐみの目の前に立った二宮は、はぐみと視線を合わせる。
「俺が思い出させてあげるよ。今の君にとって一番大切な記憶を。復讐なんかよりもずっと大切な」
二宮は手を伸ばしてはぐみの額に触れる。
「目を閉じて力を抜いて」
二宮が声をかけると、はぐみは抗うことなくゆっくりと瞼を落とした。
「そう、このまま全身から力が抜けていく。そして君は立っていられなくなる。立っていられなくなって、ゆっくりと後ろに倒れて」
二宮の言葉通り、はぐみの体が後方に倒れていった。
二宮ら横に回り込み、片手でその体を支えると、腰を下ろしていく。
はぐみがうっすらと積もった雪の上に座り込み、その体を二宮が抱き抱えるような形になった。
雪の結晶がはぐみの頬に落ち、儚く溶けていく。
「大丈夫、心配しないで思い出して。あの日に何があったのか。なんで、鴨志田の計画を止めようとしたのか」
はぐみの耳元で二宮は優しく囁きかける。
瞼の下ではぐみの目が動いた。
「君にとって大切な記憶。それを記憶の海から拾い上げるんだ」
二宮が声をかけた瞬間、
はぐみは大きく息を呑み、目を見開いた。
「思い出したかな？」
荒い息をつくはぐみに二宮は語りかける。
はぐみは視線を落とすと、両手で自らの下腹部に触れた。
「……はい、まだはっきりしない記憶もあるけれど思い出しました……この子のことを」
はぐみは唇を噛む。
その瞳から涙が溢れ出した。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
