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「あんな男、殺すような価値はないでしょ。それに、殺しても家族は返ってこないよ。はぐみさん、とりあえず出てきて話をしない？」
「……だからって、あの男を赦せっていうんですか？」
怒りに満ちた声が響く。
「爆発が起こるまで、絶対に私は出て行きません。顔を見せたら、二宮先生にコードの番号を読まれるかもしれないから」
ああ、我ながら馬鹿なことを言ったな。
二宮は反省する。
さっき気付いていたはずじゃないか。
はぐみさんはもう覚悟を決めているって。
普通の説得で、はぐみさんを止めることなんか出来るわけがないんだ。
もし、説得できるとしたら……
二宮の耳に、ついさっき雅紀から囁かれた言葉が蘇る。
二宮は大きく息を吸った。
「分かりましたよ。それじゃあ、はぐみさん。隠れたままでいいから俺の話を聞いて。俺たちと会った日、はぐみさんはマンションから逃げ出したんだよね。どうしてだと思う」
「それはきっと、鴨志田たちが口封じに私を殺そうとしたからです」
自信なさげなはぐみの声が聞こえてくる。
「いや、違うね。はぐみさんはあの日、鴨志田たちに計画をやめたいって言ったんだよ。けれど受け入れられなかったから、はぐみさんは警察に通報しようとした。それに気付かれたから拉致された時、その事を思い出したんだ」
「そんなわけありません！梅沢さえ殺せば、私はどうでも良かったんです。この前、拉致された時、その事を思い出したんです！」
「確かにそう思っていたんだろうね。けれど、あの日、君の決意を揺るがすような事が起こったんだ。そして君は、梅沢殺害を中止にしただけでなく、鴨志田たちの計画も止めようとした」
「そんなことあるわけない！何が起ころうと私の心が変わるはずないんです！家族がいなくなったこの世界なんて、私にとって意味がないんだから！」
聞こえてくるはぐみの声が大きく、そして甲高くなっていく。
二宮は大きく息を吸う。
大切な事をはぐみに伝えるために。
「はぐみさん、君の家族はまだいるよ」
その言葉を口にすると同時に、どこからか大きく息を呑む音が聞こえた。
数瞬後、右の奥に生えていた木の陰から、はぐみが飛び出してきた。
「嘘よ！そんなの嘘！私は覚えているもの、二人が死んだ事を。夫も娘も炎で焼かれて……真っ黒になっていた。私が見ても分からないくらいに……それとも、あの遺体は他人のもので、私の家族はまだ生きているとでも言うの？」
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
