第４章ー８ー ページ33
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「ああ、うるさいなぁ」
息を弾ませつつ、足首が埋まるほど雪が積もった林の中を歩きながら、二宮は悪態をつく。
さっきから何度も繰り返しスマートフォンが着信音を鳴らしていた。
ログハウスを出てから30分近い時間が経っていた。
爆発の時間まであと10分ほどだろう。
しかし、未だにはぐみに追いつくことは出来ていなかった。
すぐそばに車道が走っているので、街灯の明かりで何とか視界は保つ事が出来ている。
二宮は必死に目を凝らして、雪の上に刻まれたはぐみの足跡を追う。
着信音が鼓膜を揺らし続けた。
「ああ、もう！」
二宮はコートのポケットからスマートフォンを取り出すと、通話ボタンを押した。
「なんですか、いま忙しいのに」
『二宮先生、どのコードを切るか分かりましたか?!』
電話から、焦りを色濃く含んだ櫻井の声が響いてくる。
「コード？」
『爆弾を解体するためには、10本のコードのうち、どれを切るか分からないといけないんです。早くはぐみさんに、正解のコードの番号を訊いてください』
「訊けって言われてもなぁ……」
『二宮先生、まさかまだはぐみさんに追いついていないんですか？制限時間まであと10分ちょっとしかないんですよ。急いでください。マジで急いで！』
「分かってますって。これでも出来る限り急いで……」
そこまで言ったところで二宮は言葉を止める。
半径20メートルほどの空間に樹々が密に立ち並び、そのせいで雪があまり積もっていない場所に出た。
足跡はそこで途切れている。
二宮は足を止め、耳を澄ます。
どこからか、微かに息遣いが聞こえてきた。
この周囲にはぐみがいる。
「翔ちゃん、一旦切ります」
二宮は返事を聞くこともせず電話回線を切ると、そのままスマートフォンの電源を落としてあたりを見回す。
立ち並ぶ樹々が視界を遮り、はぐみの姿は見えない。
「はぐみさーん」
二宮は声を張り上げた。
周りの木に反響して、声にエコーがかかる。
しかし、返答はなかった。
「はぐみさん、近くにいるんでしょ。出てきてよ。爆発まであと10分しかないんだ。切るコードの番号を教えて」
「嫌です！」
はぐみの声が聞こえてきた。
しかし、声がこだましているせいで、どこにはぐみがいるのか分からない。
「お願いだってはぐみさん。このままじゃ、大野さんたちが死んじゃうんだよ」
「大野先生たちだって、最後には諦めて避難するはずです。死ぬのは私の家族を殺したあの男だけです！」
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
