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「いや、都心では最近、物騒なことが続いているからね」
歯切れ悪く言う東海を見て、鴨志田は内心ほくそ笑む。
すべてが予定通りだった。
日本セキュリティ保障は、この羽村市の営業所の他にも、日本橋の本社と新宿の支社に同じレベルのセキュリティを誇る金庫室を保有していた。
予定では本社に今回の『品物』が運び込まれるはずだったが、急遽この羽村営業所の地下金庫へと保管場所が変更となったのだ。
その理由こそ、都心で起こった２回のビル爆破だった。
日本橋と新宿の金庫室はビルの最上階にあり、
どちらのビルも13階建てだった。
連続して都心で13階建てのビルが爆破されたということで、日本セキュリティ保障の上層部は、この羽村営業所の地下金庫を使わざるをえなくなった。
「それじゃあ、さっそくスケジュール確認をしよう」
ストローで緑茶を一口飲んだあと、東海が忙しなく切り出した。
おそらく、今回任された『品物』の重要性に圧倒されているのだろう。
もし破損でもしようものなら、国際問題になりかねない。
鴨志田は「失礼します」と対面のソファーに腰掛けながら、ハンカチで汗をぬぐう東海の顔を見る。
全部お前が悪いんだ。
胸の中で鴨志田は悪態をついた。
５年前、日本セキュリティ保障が、ユニバーサル警備を吸収合併する際、当時副社長を務めていた東海は最後まで反対した。
ユニバーサル警備のノウハウは確かに魅力的だが、鴨志田たちの交友関係が好ましくないというのがその理由だった。
たしかに鴨志田には反社会的組織に属している知人も多く、彼らの警護を買って出ることもままあった。
今回の計画で、民間軍事会社時代の同僚が用意してくれたC4爆薬を日本に密輸出来たのも、そのような人物の協力があったからに他ならない。
結局、鴨志田が反社会的組織との関係を上手く隠していたこと、前社長が鴨志田を高く買っていたことからユニバーサル警備は日本セキュリティ保障に吸収され、鴨志田は常務に就くことになった。
本当ならそこから這い上がり、いつかは日本最大のセキュリティ会社を牛耳る予定だった。
しかし、目の前の男のせいで全てが狂った。
４年前、新社長に就任した東海は、鴨志田を徹底的に冷遇した。
要人警護の部署の責任者から、あまり仕事のない多摩地区の責任者へと異動させた。
さらに噂では、鴨志田と反社会的組織との関係についても調べているということだった。
それが明るみに出れば間違いなく解雇される。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
