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「言ってるでしょ、俺は人が何を考えているか分かるって。ちょっと説得したぐらいではぐみさんが復讐を辞めるなんて思ってないですよ。だってはぐみさん、その男を殺して自分も死ぬつもりでしょ」
図星をつかれ、はぐみは言葉が継げなくなる。
「そんな！助けてくれるんじゃないのか?!」
梅沢が金切り声を上げる。
二宮は顔をしかめて両耳を手のひらで塞いた。
「うるさいなぁ。仕方がないじゃない、警察が到着したら爆破されちゃうんだから。どうしようもないよ」
梅沢は気を失ったかのように、がっくりと頭を垂れる。
「じゃあ、何でここに来たんですか？」
はぐみは警戒を解くことなく訊ねる。
「はぐみさんの記憶をとりもどすために決まっているじゃない」
二宮は芝居じみた仕草で両手を広げた。
「記憶を取り戻す？」
「そう。はぐみさん、まだ思い出していないことがあるでしょ。頭を殴られて川に落とされた日のこと」
その通りだった。
あの日の事だけが霞がかかったかのように思い出せなかった。
その事すら、二宮は見抜いていたらしい。
断片的な記憶はある。
部屋を飛び出したこと。
川で溺れそうになったこと。
川から上がった時、梅沢の家の近くだと気づき、訳の分からないままそこに向かったこと。
しかし、なぜ自宅から逃げ出したのか、なぜ協力関係にあった鴨志田の部下に追われたのか思い出せなかった。
何か大切なことをまだ忘れている。
その感覚がもどかしかった。
「その記憶を戻してくれるっていうんですか？」
探るように訊ねると、二宮は頷いた。
「そうです。家族の辛い記憶を取り戻したいままなら、催眠療法でそれほど負担なく記憶を回復できるだろうからね」
「それだけのために、わざわざここへ？」
「はぐみさんに会ってから、ずっと俺は記憶を取り戻そうとしてきた。記憶を取り戻す前に死なれるなんて、精神科医としての俺のプライドが許さないんですよ」
はぐみは迷う。確かに死ぬ前に全てを思い出したいという気持ちはある。
しかし、二宮を信用してもいいのだろうか？
もしかしたら二宮は催眠術をかけて、爆弾の解体方法を言わせる気かもしれない。
「ああ、もう！」
突然、二宮が苛立たしげにかぶりを振る。
「せっかく良いところなのに。どうやってここが分かったんだよ」
二宮が振り返って入口の扉を見る。
次の瞬間、甲高いブレーキ音が外から響いた。
まさか……
はぐみが唖然としていると、入口の扉が勢いよく開いた。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
