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「あの秘書が言っていたわよ。事件のとき警察を呼ぼうとしたけど、あなたに止められたって。けれど彼女は良心の呵責に耐えきれなくなだて、私に真相を告白した。秘書が限界になっている事に気づいたあなたは、家に呼び出して脅迫したのよ」
「違う。私は彼女を呼んで提案をしたんだ」
「提案？」
「そうだ。遺族である君に、匿名で見舞金を払おうって。十分な金額を払うつもりだった。ちょうどその時に君が庭に入って来たんだ。驚いて庭に出ると、君を見た秘書が『あの親子の遺族だ』と言った。何でそんな事を知っているのか問い詰めると、秘書は君に会って事件の全てを告白したと言い出したんだ」
梅沢は早口でしゃべり続ける。
「そのあと、秘書を帰して大野先生たちを呼んだのは、その方が警察などの邪魔が入らず、落ち着いて見舞金の交渉が出来ると思ったからだ。意識が戻ったらすぐに君と相談して、十分な補償をさせてもらおうと思っていたんだ。けれど、君が記憶を失っていると聞いて、どうしたらいいから分からなくなったんだよ。分かるだろ？私は事件をもみ消そうとしたわけじゃない。君が納得するような方法を探ろうと思っていたんだ」
媚びるような笑みを梅沢が浮かべるのを見て、はぐみは怒りで目眩すらしてきた。
「見舞金？私の夫と娘を殺しておいて、お金でどうにかしようとしたわけ?!」
「仕方がないだろ、もう済んだことなんだから！あれは不幸な事故だったんだ！」
梅沢は開き直ったかのように声を荒らげる。
はぐみは腹の底が冷えていくのを覚えた。
「事故？飲酒運転で追突して相手の車を橋から落としたうえ、助けようともしないでその場から逃げた。それが事故？」
「いや、それは……」
梅沢はしどろもどろになる。
はぐみら爆弾に視線を落とす。
タイマーには『1:02:58』と表情されていた。
起爆装置を作る際、鴨志田の依頼で最大5時間まで設定出来るように作っていた。
本当ならもっと長い時間、梅沢を苦しめたかったが、仕方がなかった。
「私が納得する方法はただ一つ。あなたが十分に恐怖を感じたあと爆死することよ」
はぐみが淡々と言うと、
梅沢の口から絶望のうめき声が上がった。
もうこの男と話すことなどない。
残り一時間、この男が苦しむ様をゆっくりと観察させてもらうとしよう。
身を翻したはぐみは、梅沢から離れ暖炉に近づいていく。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
