第４章ー６ー ページ23
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「お願いだから、こんな事はやめてくれ！」
目を充血させながら叫ぶ男を、はぐみは無表情ね見下ろす。
3メートルほど離れたところには梅沢、愛する夫と娘を殺した男が、木製の椅子に座っている。
そして、梅沢の膝の上には黒い箱が置かれていた。上蓋に嵌め込まれた液晶タイマーが点滅している黒い箱が。
はぐみは梅沢から視線を外すと、20畳ほどの広い部屋を見回す。
丸太を組み合わせて作られたシックなログハウス。
天井が高い広々とした空間に、ソファー、ダイニングテーブル、ワインクーラーなどが並べられている。
その全てが高級感を醸し出していた。
部屋の隅にある暖炉では炎が揺らめいている。
ついさっき、はぐみが火を点けていた。
軽井沢にある梅沢の別荘。
4時間ほど前からはぐみは梅沢とともにここにいた。
「謝る！それに君のことは誰にも言わない！だからこの箱をどけてくれ！」
「無理よ」
はぐみは感情を排した声で言う。
「無理ってどういう事だ?!」
梅沢の声がひび割れた。
「その爆破装置には解除機能が付いていないの。一度タイマーを入れたら、止めるには解体するしかない」
「な、なら、解体してくれ！頼む！」
今にも泣き出しそうな表情で梅沢は叫ぶ。
「それも無理。幾つもブービートラップを仕掛けてあるから、起爆せずに解体なんてまず不可能……私以外ね」
「君なら出来るんだろ。それなら……」
「私があなたを助けるわけないでしょ！私の家族を殺したあなたを！」
はぐみの怒声が梅沢の声をかき消した。
梅沢の顔が恐怖に歪む。
「ずっとあなたを殺す事だけを考えていた……」
はぐみは振り返ると、揺れる暖炉の炎を眺めた。
この男の秘書が訪ねてきたあの日から、計画は始まった。
秘書は泣いて土下座をしながら、夫と娘がなぜ死んだのか、誰にその責任があるのかを教えてくれた。
その時、家族を失って空っぽになっていた胸に小さな炎が灯った。
復讐という名の炎が。
どうやって梅沢を苦しめるか、まずはそれを考えた。
自分と同じ思いをさせるために、家族を殺す事も考えたが、罪のない人まで巻き込むことは出来なかった。
最終的に思いついたのが、時限爆弾だった。
身動きが出来ない状態で、刻一刻と自分の死が近づいているのを目の当たりにさせる。
それこそが自分がとれる最も梅沢を苦しめる方法だと確信した。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
