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「待ってくれ。はぐみさんの家族は、お前ら以外の誰かに殺されたっていうのか？」
混乱した櫻井は声を上ずらせる。
「ああ。あの女の旦那と娘が乗った車は、飲酒運転の車に衝突されて橋から落ちたんだよ。あの女はその犯人を殺すために、爆薬を手に入れようとしていたんだ」
「たしか、あれは事故だって……」
櫻井は言葉を失う。
「あの女もそう思っていたみたいだな。けれど、事件から少し経った時、若い女が家に訪ねてきて、事故の真相を教えたんだ。その女はでかい会社の社長の秘書兼愛人で、事故の日にも逢引きしていた。けれど、不倫場所で酒を飲んでいたとき、会社でトラブルがあって、急いで戻らないといけなくなったんだってよ。そしねその社長はかなり酒が入ったまま運転して、哀れな親子の乗った車に追突した。車が炎上したのを見て怖くなった社長はその場から逃げたうえ、事件のことを誰にも言わないように秘書に口止めしたってわけさ」
「……けれど、その秘書は罪悪感に耐えきれなくなって、遺族であるはぐみさんに真実を告白した」
櫻井があとを引き継ぐと、倉田は頷いた。
その時、遠くから声が聞こえ、櫻井は振り返る。
見ると、奈美と松本が数人の警備員とともに土手を下りてきていた。
雅紀からの連絡を受け、鴨志田の子飼いではない警備員たちと倉田を拘束しに来たのだろう。
倉田に向き直った櫻井は、その目を真っ直ぐに見る。
「はぐみさんが復讐しようとしていた社長、そいつが誰か知っているか？」
倉田はまだ僅かに血が溢れてくる右目元の傷を拭うと、にやりと笑った。
「ああ、知ってる。
……梅沢化粧品とかいう会社の社長さ」
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
