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「鴨志田常務、お願いします」
「承知いたしました、社長」
慇懃に返事をした鴨志田は、厚さ20センチを超える巨大な鋼鉄製の扉に近づいていく。
鴨志田たちがいるこの場所は、東京都羽村市にある日本セキュリティ保障の営業所の地下にあった。
地上３階建ての小さな営業所だが、ここには一般には公開されていない秘密がある。
それがこの地下金庫室だ。
営業所の地下２階、特別に許可を持った者しか入れないこの区画には、最先端のセキュリティを誇る金庫室が設置されている。
そして今日のように、極めて貴重な物品の保管を委託された時に使用されるのだ。
鴨志田は金庫の中を覗き込んだ。
小さな体育館ほどの広い空間に、数十の木箱が詰め込まれている。
唾を飲み下しながら、
鴨志田は視線を扉のわきの壁に向ける。
そこには網膜スキャン用のカメラと暗号を打ち込むパネル、そして『CLOSE』と赤字で記されたボタンが設置されていた。
鴨志田は力を込めてボタンを押し込む。
重さ１トンを超える鋼鉄製の扉が滑るように移動し、重い音を立てて閉まった。
中から錠が降りる音が響いてくる。
「金庫の閉鎖を確認しました。搬出は３日後になります。その際にはまた社長の立ち会いをお願いいたします」
鴨志田の言葉に東海は硬い表情であごを引いた。
この扉を開くことが出来るのは、社長である東海の他は、副所長と会長のみだった。
常務である鴨志田すら、網膜血管走行の登録と、暗証番号の通知を受けてはいない。
「お疲れ様でした。それでは私たちは失礼いたします」
物品の運搬を行った20人を超える作業員たちが部屋から出て行く。
大手流通会社の重要物品を運ぶ専門チームらしく、空港からこのビルまでの輸送、そしてビルの地下１階にある駐車場からこの金庫室までの搬送をスムーズにやり遂げていた。
作業員たちが帰ると、部屋には鴨志田、猿渡、東海と３人の美術関係者、そして５人の警備員が残された。
「社長、それでは別室で、今後のスケジュールを確認させていただきます」
東海はどこか落ち着かない様子で頷いた。
鴨志田は「あとはよろしく」と猿渡に声をかけ、東海たちを先導して金庫室を出る。
扉が並ぶ殺風景な廊下を進み、鴨志田たちは応接室に入った。
「この度は。ここの金庫室を選んでいただき光栄です。猿渡所長も喜んでいました」
鴨志田は部屋の奥の冷蔵庫から緑茶のパックを取り出し、ソファーに腰掛けた東海たちに手渡していく。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
