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「お前たち、はぐみさんを拉致しているんだろ？」
櫻井がつぶやく。
倉田は訝しげに目を細めた。
「なんの話だ？」
「鴨志田もそうやってしらばっくれていたな。お前ら以外にはぐみさんを拉致する奴らなんていないんだ。はぐみさんの家族を殺したうえ、時限装置作りを強制させた事を知られないために、口を封じようっていうんだろ？今更そんな事しても罪が重くなるだけだ。はぐみさんを解放してくれ」
櫻井の言葉を聞いた倉田は数秒呆けたあと、忍び笑いを漏らす。
「何がおかしい？」
櫻井は眉間にしわを寄せた。
「お前ら、色々と勘違いしてるぜ」
倉田は鼻を鳴らす。
「勘違い？なんの事だ？」
「ゆっくり教えてやりたいのは山々なんだけどな、あまり時間がないんだよ。おあつらえ向きのリングに着いたし、そろそろ始めようぜ」
ジャケットを脱ぎ捨てた倉田は、数歩進むと振り返る。
その両手がゆっくりと上がり、顔の前で拳を作った。
背中が曲がり、上目遣いに櫻井を睨め上げてくる。
同じようにジャケットを脱いだ櫻井も、重心を落としスタンスを広げると、胸の前で両手を構えた。
「今の話、お前が勝てば詳しく教えてやるよ」
倉田は振り子のように上体を揺らしはじめた。
櫻井は細く息を吐いていく。
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フェンスに背を預けて座り込んだ倉田を見下ろして、櫻井は構えを解く。
「俺の勝ちってことでいいかな？」
「……俺をKOしたのは、日本チャンピオンとお前だけだよ」
憑き物が落ちたかのように、倉田の顔は穏やかだった。
「親父さんから弱点を聞いていたからな。けどお前、根っからのボクサーだよ。罪を償ったら、親父さんのジムでトレーナーでもやったらどうだ？」
「俺は勘当されたんだ。戻れるわけがないだろ」
「そうかな？親父さん、お前のことかなり気にしていたぞ」
倉田は一瞬驚きの表情を浮かべると、星が瞬く空を見上げた。
「……それもいいかもな」
その時、どこからか音楽が聞こえてきた。
見ると、さっき投げ捨てたジャケットから音が響いている。
どうやら、ポケットに入れていたスマートフォンに着信が入っているようだ。
櫻井はダメージのせいでふらつきながらジャケットに近づくと、ポケットからスマートフォンを取り出す。
液晶画面には『雅紀さん』と表示されていた。
通話ボタンに触れ、顔の横にスマートフォンを持っていく。
「はい、もしもし」
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
