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二人は並んで歩き、土手を上がる階段へとたどり着いた。
「なあ」
階段を上がりながら櫻井がつぶやく。
「何であんな犯罪に協力したんだ？金のためか？」
倉田はすぐには答えなかった。
二人は土手の上に到着する。
フットサル用のグラウンドが3つほど並び、その奥に多摩川が流れていた。
ナイター用にか、グラウンドには外灯があり、それほど暗くはない。
「……金が欲しくなかったと言えば嘘になるな。でもな、一番の理由は猿渡さんに頼まれたからだ」
倉田は階段を下りはじめる。
「猿渡って、鴨志田と一緒にユニバーサル警備を立ち上げた男だな」
「あの人は、俺の高校のボクシング部の先輩なんだよ。歳は離れていたけどな、学生時代はかなり面倒をみてもらった。まあ、あの人はアメリカの会社に勤めていたから、日本に帰ってきた時だけだけどな」
倉田は月が浮かぶ空を見上げる。
「タイトルマッチでKO負けしてボクサーを辞めたあと、俺は自暴自棄になった。暴れまわって、最終的にゃヤクザに狙われるまでになっちまったんだよ。そんな俺を助けてくれたのが猿渡さんなのさ。あの人は俺なんかのために一人で組事務所に行って話をつけてくれたうえ、自分たちが立ち上げた会社に就職させてくれた。まあ、日本セキュリティ保障に吸収された時リストラされちまったけど、その後も何かにつけて面倒を見てくれたんだよ」
階段を下り終え、倉田はフットサルのグラウンドに向かって歩いていく。
「その男が今回の爆破事件を計画して、お前に協力を依頼してきたのか」
櫻井の言葉は硬かった。
恩を着せて都合良く利用されているとしか思えない。
「計画したのは鴨志田だ。猿渡さんはあの男を止められないんで、仕方なく協力しただけだ。鴨志田の計画だと、人がいるビルを狙う予定だったんだ。それを、猿渡さんが出来るだけ被害を出さないように説得したんだ」
「けど、お前ははぐみさんを殴ったうえ、増水した川に投げ込んだだろ」
非難で飽和した声をぶつけられた倉田は、表情を歪ませる。
「言い訳に聞こえるだろうがな、俺は殴ってない。俺はただ、あの女を連れ戻すつもりだったんだ。けれど、鴨志田の部下がパニックになってバットで殴って、バランスを崩した女が川に落ちちまったんだよ」
倉田はグラウンドを囲むフェンスを開け、中に入っていく。
櫻井もその後を追った。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
