第４章ー５ー ページ17
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息を切らせながら営業所を出た櫻井は、周囲を見回す。
羽村市のはずれに位置するこの周辺は民家も少なく、辺りは閑散としている。
畑が周囲に広がり、裏手には土手が走っていた。
あの男は金庫室にはいなかった。
ならば、きっとこの周辺にいるはずだ。
フェンスで囲まれた野球場ほどの敷地を、左右に視線を送りながら歩いていると、車のエンジン音が響いた。
フェンスに沿って並んでいる樹木の向こう側にバンが見えた。
先日、はぐみを拉致したバン。
櫻井は走り出す。
しかし、近づく前にバンは走り去っていった。
追わせなくては。
櫻井はすぐに近くに停めたミニで待機している奈美と松本に連絡しようと、ジャケットのポケットに手を入れる。
しかし、スマートフォンを取り出しかけていた手が動きを止めた。
バンが走り去った車道、そこに一人の男が立っていた。
身長170センチ程度で筋肉質の体、
右の眉から目尻にかけて走っている傷跡。
倉田雅次だった。
ポケットから手を出した櫻井は、ゆっくりとした歩調で歩いていく。
倉田も近づいてきた。
フェンスを挟んで二人は対峙する。
「猿渡さんと連絡が取れなくなった。お前がここにいるところを見ると、作戦は失敗したんだな」
淡々と言う倉田に、櫻井は頷く。
「ああ、あいつらは拘束された。もう少ししたら、警察に引き渡される」
金庫室を出た時点では、まだ鴨志田たちは無力化出来ていなかったが、大野が相手では時間の問題だろう。
あとは、近くに待機している二宮が尋問して、はぐみについて問いただしたあと警察を呼ぶだけだ。
「そうだと思ったよ」
倉田の声には諦めとともに、どこか安堵するような響きがあった。
「なんで逃げなかったんだ？仲間はさっきのバンで逃げたんだろ？」
「逃げたって無駄さ。海外に逃げる手配は全部猿渡さんと鴨志田がしていた。あの2人がいなけりゃ、どこにも逃げられない。日本の警察は優秀だ。隠れたってすぐに見つかるよ。それに、俺にはやらないといけないことがあったからな」
「やらないといけないこと？」
櫻井が聞き返すと、倉田は口角を上げる。
「お前との決着だ。お前が独りでうろうろしていたのも、俺を探していたんだろ」
「ああ、そうだ」
櫻井も笑みを返した。
「あの土手の奥の河川敷に小さなグラウンドがある。そこでやるっていうのはどうだ？邪魔は入らないだろうし、足場も悪くない」
倉田ら親指で背後の土手を指す。
「そうだな、それが良い」
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
