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一人目の警備員が男の頭に向かって警棒を振り下ろす。
鋼鉄製の警棒が頭蓋に叩き付けられる寸前、男は滑るように僅かに後方に移動した。
警棒が空を切る。
攻撃をすかされた警備員は、勢いよく空振りをして体勢を崩す。
男は一瞬で間合いを詰めると、警備員の体を無造作に両手で押した。
たたらを踏んでいたところを押された警備員は、もう一人の警備員に向かって倒れ込む。
２人は抱き合うような形になった。
男は両手を２人の後頭部に添えると、シンバルでも鳴らすかのように勢いよく頭をぶつける。
重い音が響きわたり、２人の警備員はその場に崩れ落ちた。
鴨志田は慌てて足を止める。
警備員たちは２人とも細かく痙攣し、完全に失神していた。
「来ないのか？なら、俺から行こうか？」
瞬きするほどの間に２人を無力化した男が声をかけてくる。
鴨志田は我に返り、ナイフを胸の前に構える。
しかし、足を踏み出すことは出来なかった。
さっきなぜ自分が寒気を覚えたか、鴨志田はようやく気づく。
目の前に立つ男はあの灼熱の戦場に勝るとも劣らぬほどの危険を内包していたのだ。
気を抜けば、膝が折れてしまいそうな絶望が胸を満たしていく。
「うああああー！」
雄叫びを上げて恐怖を誤魔化すと、鴨志田は男に踊りかかった。
突き出したナイフの刃先が胸に吸い込まれると思ったとき、男は軽く体を開いた。
ナイフが虚空を貫く。
ナイフを持つ腕が男の左腕に抱え込まれた。
男は顔に笑みを湛えたまま、軽く脇を絞る。
それだけで肘関節が極まり、
万力で締め上げられたような痛みが腕を襲う。
手からナイフが零れ落ちた。
鴨志田は少しでも痛みから逃れようと、無意識につま先立ちになってしまう。
男の右手が鴨志田の後頭部に添えられた。
腕が解放されると同時に、鴨志田の頭部は勢いよく下方に引き落とされていく。
何でこんな事になったんだ？
男が繰り出した膝蹴りが勢いよく顔面に迫っていくのを眺める鴨志田の頭には、そんな疑問が浮かんでいた。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
