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鴨志田は慎重に言葉を選ぶ。
「まあいい。とりあえずお前ちを拘束して、その後、ニノに尋問させれば済むことだな」
独りごちるように言うと、中年の男はすっと顎を引く。
その瞬間、鴨志田の背中に冷たい震えが走った。
無意識な両手を体の前にやってしまう。
そばに立つ２人の警備員が、訝しげに視線を送ってきた。
なんだ今のは？
自分がなぜ怯えているのか分からず、鴨志田は戸惑う。
目の前の男が戦闘態勢に入った瞬間、全身の細胞が危険を知らせてきた。
こんな感覚は戦場でしか感じたことがなかった。
鴨志田はポケットに手を忍ばせらそこに入れておいた飛び出しナイフを握る。
東海は戦力にはならないだろう。
あの男さえ始末すれば、
この場を切り抜けることが出来る。
こちらは３人、しかも武器を持っている。
どうとでもなるはずだ。
「ここは俺一人でいい。お前の相手は他にいるんだろ」
中年の男が若い男に声をかける。
「いいんですか？」
若い男が申し訳なさそうに言うと、中年の男は「当然だろ」と頷いた。
「じゃあ、お任せします」
若い男が身を翻し、
小走りに出口へと向かっていく。
その姿が扉の向こう側に消えるのを、鴨志田は唖然としながら見送った。
「さて、それじゃあ始めようか」
まるで朝の挨拶でもするかのように中年の男が言う。
笑みを浮かべた元金髪の男と、
怯えた表情の東海が男から距離を取った。
俺たち３人を一人で相手にするつもりか？
こんな平和な国でのうのうと生きてきた男が、戦場を生き抜いた俺を馬鹿にするのか？
怒りが警戒心を塗りつぶしていく。
鴨志田は左右に立つ警備員を見た。
「同時に行くぞ」
押し殺した鴨志田の言葉を聞いた２人は、緊張の面持ちで頷くと、腰にさしてある警棒を手に取った。
鴨志田はポケットの中で飛び出しナイフの刀を出す。
「行けっ！」
鴨志田が声を張り上げると同時に、左右の警備員たちが雄叫びを上げながら男に向かって走り出した。
一瞬遅れて鴨志田も、ナイフを持つ手を抜いて走る。
猿渡を拘束したのを見ても、
男が手練れなのは間違いないだろう。
しかし、３人の同時攻撃に対応出来るわけがない。
前の２人の攻撃を防いでいる間に、俺がナイフで首筋を掻っ切ってやる。
金庫を出た警備員たちは警棒を振り上げつつ飛びかかっていくが、男は手をだらりと下げたままだった。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
