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「……猿渡、どうした？何かあったのか？」
『俺が爆弾を置いた』
淡々とした声が金庫内に反響する。
鴨志田は耳を疑った。
「おい、猿渡。どういう事だ?!何で爆弾を置いて、しかもタイマーまね入れたんだ。全部美術品を運び出してからの予定だろ！」
『もう運び出したよ』
「は？」
『聞こえなかったのか？もう運び出した。お前が社長たちと応接室でだべっている間にな。何なら確認してみろ』
鴨志田は一瞬硬直したあと「よこせ！」と警備員から懐中電灯を奪い、すぐ脇に置かれていた木箱に手をかける。
硬く封をされている木箱の天板に懐中電灯の尻を叩きつけて割ると、隙間からのぞき込む。
中は空洞だった。
『分かったかい、鴨志田。お前はそこで空の木箱と吹き飛ぶのさ。そして、お宝は俺が頂くことにする』
嘲笑するような声が響く。
鴨志田はふらふらと再びインターホンに近づいた。
「なんでだ、猿渡。ずっと２人でやってきただろ。俺たちは兄弟みたいなものだっただろ」
拳を握りしめながら、鴨志田は声を絞り出す。
『兄弟？白々しい。全部分かっていたんだ。最終的に全ての責任をなすりつけて俺を殺すつもりだってな。そういう計画だったんだろ？』
「馬鹿な！そんなわけがないだろ！」
『そうか？けどな、俺は本当はこんな恐ろしい計画、やりたくなかったんだよ』
「何を言っているんだ！全部２人で計画したじゃないか。テロに見せかけてビルを爆破することも、今夜社長たちを殺して、美術品を奪うことも」
『こんな計画、最初から無理だったんだ。警察だって、爆弾を仕掛けたのが俺たちの昔の部下、爆破の夜に勤務していた警備員たちだってことに気づきはじめている！』
「だから、あいつらに姿を隠させたんだろ。それも相談して決めたことじゃないか」
『そんなこと言って、実は殺したんだろ？分かってるぞ。お前は仲間全員殺して、金を独り占めするつもりだったんだ！』
インターホンから聞こえてくる声がヒステリックに割れはじめる。
言っている内容も支離滅裂だ。
戦場という極限状態に晒されることによって、同じような状況になった者を鴨志田は何人も見てきた。
今回の計画のストレスで、猿渡の精神は破綻してしまったのかもしれない。
記憶も混乱してるようだ。
「猿渡、よく思い出してくれ。あいつらは福岡の隠れ家に逃がした。俺たちも美術品と一緒にそっちに移動して、後は船で密航する予定だっただろ」
諭すような口調で鴨志田は言う。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
