第４章ー４ー ページ2
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厳重に梱包された木製の箱が、作業員たちの手によって次々と、開いた扉の中へと運び込まれていく。
部屋の隅でその光景を眺めながら、
鴨志田亮介はスーツのネクタイを緩めた。
緊張でさっきからやけに息苦しかった。
46年の人生で様々な経験をしてきた。
アフガニスタンでは目の前を走る車が地雷で吹き飛ばされたこともあるし、宿舎にロケット砲が撃ち込まれたこともあった。
しかし、今夜ほどの緊張は未だかつて味わったことがなかった。
腕時計に視線を落とす。
時刻は午後10時を回っていた。
鴨志田は胸に手を置いて深呼吸すると、
隣に立つ猿渡恒彦の顔を見る。
スーツの上からでも分かる盛り上がった筋肉。
190センチを超える長身。
一見すると悪役のプロレスラーのような外見の猿渡は、視線に気づき小さく頷いた。
アメリカに渡って入社した民間軍事会社で出会った猿渡。
この男とは何度もともに死線を潜り抜けてきた。
何度も命を救われ、
そして同じくらい命を救ってきた。
唯一、鴨志田が信頼する男、それが猿渡だった。
鴨志田が視線を正面に戻す。
最後の木箱を運んだ作業員が扉から出てきた。
「はじめるぞ」
鴨志田が囁くと、猿渡は「ああ」と力強く返事をした。
「東海社長、すべての作品の搬入を確認しました。今後は来週の搬出まで、御社の管理になります。宜しければサインをお願いいたします」
中年の作業員が、書類をスーツ姿の壮年の男に渡す。
中肉中背で白髪の目立ったその男、日本セキュリティ保障の東海盛定は、緊張の面持ちで書類にサインをした。
東海の傍にはブラックスーツを着た体格のいい男が２人立っていた。
美術館のキュレーターだということだった。
彼らの背後では、金髪碧眼の美女が艶やかな笑みを浮かべながら部屋を見回している。
東海の説明では、フランスから派遣されたアドバイザーで、今回扱う物品を問題なく取り扱っているか監視しているらしい。
ブランド物のスーツを着ているが、ややサイズが小さいのか体のラインが浮き出している。
いい女なのにもったいねえな。
鴨志田が胸の中でつぶやいていると、女が中年のキュレーターに何やら耳打ちをする。
「えー取り敢えずこれまでの手順に問題はないとのことです。それでは予定通り、皆さん立ち会いのもと、金庫の閉鎖をお願いいたします」
中年のキュレーターが声を張り上げた。
東海は頷くと、鴨志田に視線を送ってくる。
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作者名：未翔
| 作成日時：2023年8月9日 21時
