大野クリニックで祝杯を－淡雪の記憶－ (ページ45)

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二宮の体が車外へと吸い込まれ、その肩を掴もうとしていた男の手が空を切る。

「出します！掴まってください！」

奈美の声が響くと同時にミニは急発進する。

開いていた後部ドアがガードレールに当たり、勢いよく閉じた。

「ああ！また傷?!この前、修理したばっかりなのに！」

奈美の悲鳴じみた声が全力疾走した二宮はもはや起き上がる力も残っていないのか、座席の床の床スペースに倒れ込んでいる。

額に浮かんだ汗を拭った櫻井は、振り返ってリアウィンドウの先を見る。

もはや男たちの姿は見えなかった。

スピードを緩めたミニは車の流れに乗っていく。

「ニノ……やっぱり少しは体を鍛えろ」

振り返った松本が、倒れ込んだままの二宮を見下ろしながら言う。

普段は体力のことを指摘されると憎まれ口を返す二宮だったが、いまは酸素を必死にむさぼっていた。

「誰だったんですか、あの人たち？」

運転席の奈美が訊ねる。

「刑事……かもしれない」

松本が陰鬱な口調で答えた。

「刑事？え？
なんで刑事に追いかけられるんですか？」

「……それは後でゆっくり説明する。とりあえずクリニックに戻ろう」

松本は「くれぐれも安全運転で」と付け足す。
しかし、奈美は答えなかった。

「奈美さん、どうかした？」

沈黙に不吉な予感を覚えた櫻井は、身を乗り出して奈美の横顔をのぞき込む。

「安全運転っていうわけにはいかないかもしれません」

奈美はちらりとバックミラーに視線を送った。