大野クリニックで祝杯を－淡雪の記憶－ (ページ39)

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交通量の少ない片側二車線、何となくレーシングコースを彷彿させる道にテンションが上がってきたのか、ミニは更に加速していく。

「奈美ちゃん。スピード出しすぎ。速すぎるってば！」

二宮が悲鳴じみた声を上げるが、満面に笑みを浮かべている奈美の耳に届いている様子はなかった。

そのとき、赤羽が「あっ！」と声を上げた。

同時にミニが急停車する。

シートベルトが胸に食い込み、櫻井の口から空気が漏れた。

「どうしました？」

奈美は車を路肩に停める。

やはりシートベルトが食い込んだのか、胸元を押さえて顔をしかめていた赤羽は、運転席側のサイドウィンドウの外を指す。

「あれです、あのマンション！」

赤羽が指さした先、１キロほどのところに10階建て程のマンションが建っていた。

「あのマンションに見覚えあるんですか？」

奈美の問いに答えることなく、赤羽はドアを開けて車外へと飛び出た。

「あっ、赤羽さん！」

奈美が声をかけるが、赤羽は止まらない。
櫻井も慌ててドアを開ける。

「赤羽さんを追う。奈美さんはとりあえず、あのマンションの近くまで車を移動させて」

「分かりました」

答えながら奈美はカーナビに視線を向ける。

「この辺りは一方通行が多いんで、路地には入れません。マンション近くで待機しています」

「了解。二宮先生、松本先生、行きましょう」

櫻井が促すと、松本は面倒くさそうに動き始める。

二宮は焦りすぎなのか、シートベルトがうまく外せず、体を小刻みにゆすっている。

ようやく車外へ出た2人とともに、櫻井は既に数10メートル先に走って行っている赤羽を追いはじめる。

「あのマンション、赤羽さんの自宅ですかね？」

「……反応を見ると、その可能性が高いな」

櫻井と松本は話しながら足を動かす。

女性の足ならすぐに追いつくだろうと思っていたが、二宮が想像以上に鈍足なため、なかなか差が詰まらなかった。

櫻井と松本は一瞬目を見合わせると、走る速度を上げる。

後ろから、二宮の「ああ、待って……」という弱々しい声が聞こえてくる。

20秒ほどで、赤信号の歩道の前で赤羽に追いついた。

「赤羽さん、危ないですよ」

駆け寄った櫻井は、赤羽の肩に手をかける。

「あのマンションを知っているんです！よく知っているんです！」

赤羽は興奮した声を上げながら、車道の向かい側の住宅街にひときわ高くそびえたっているマンションを指した。