__ ページ37
・
「意味はありますよ。赤羽さんが何も証言出来なくても、警察は彼女について色々と調べ上げて、爆発事件の解決に近づくような証拠を見つけますって」
「警察は赤羽さんが記憶喪失だなんて信じない。きっと、何かを隠していると考えて責めてくるはずだ。彼女がそれに耐えられると思っているわけ？」
昨夜、催眠療法を受けて錯乱状態に陥った赤羽の姿を思い出し、櫻井は言葉を詰まらせた。
その隙をついて、二宮は言葉を続ける。
「もし警察なんかに突き出したら、赤羽さんの精神は崩壊してしまうかもしれない。主治医としてそんな事は許可できませんね」
きっぱりと言い切られ、櫻井は黙り込む。
「ねぇ、また催眠療法をかけて、ゆっくりと記憶を取り戻させるわけにはいかないの？」
硬くなった空気をとりなすように、雅紀が軽い口調で提案する。
「昨日のショックが強すぎるから、すぐには無理ですね。落ち着いてから、もっと慎重に少しずつやってみるつもり。ただ時間はかなりかかると思う」
「かなりって、具体的にはどれくらい？」
「それは何とも言えませんね。1週間か、1ヶ月か、それとも1年か。二度と記憶が戻らない可能性だってないわけじゃないよ」
「なかなか難しいんだね」
雅紀はこめかみを掻く。
「そういえば、松本先生はどこにいるの？」
櫻井は小声で、隣に立つ奈美に訊ねる。
「赤羽さんの病室でスケッチを描いていますよ」
「それって、催眠療法の時に見た光景を？」
奈美が「はい」と頷いた時、カウンター奥の扉が開き、松本がいつも通りの緩慢な足取りで入ってきた。
「できたか？」
大野が声をかけると、松本は無言のまま手にしていたスケッチ用紙を掲げた。
淡い間接照明に照らされたこの薄暗い店内では、その精巧な絵はモノクロ写真のように見えた。
手前には幅の広い川が流れ、土手の奥に街が広がっていた。
中央には2棟のビルが描かれている。
1棟は天を衝くようにそびえたち、その半分ほどの高さのもう1棟もかなり背が高いことがうかがえた。
「相変わらず潤ちゃんって絵、上手だよね。赤羽さんの話を聞いただけで、よくそんな写真みたいな絵をかけるよね」
雅紀が賞賛の声を上げる。
「その真ん中にある2棟のビル、何か見覚えがあるんですけど」
奈美は唇に人差し指を添えた。
「池袋だな」
大野は笑みを浮かべながら顎を撫でる。
「サンシャイン60と隣に立つプリンスホテル。赤羽さんの自宅は、池袋を見渡せる場所にあるってことだ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 895人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：未翔
| 作成日時：2021年11月9日 16時
