第２章−１− ページ35
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疲れたな。
櫻井は首筋をもむ。
時刻は午後6時過ぎ、既に日は沈んでいる。
街灯の光に照らされた路地を、
櫻井は梓ビルに向かって歩いていた。
赤羽に催眠療法を試みた翌日、櫻井は昼から大野の執刀で行われた、有名俳優の大腸癌に対する大腸切除術の助手を務めた。
術後、患者はキャンピングカーで青山第一病院へと搬送されらいつものように最上階の秘密病棟へと入院となった。
病棟で術後の点滴等の指示を出したあと、昨日雅紀の手術を受けた患者の診察やガーゼの交換なども行ったので、こんな時間になっていた。
冬の足音が聞こえてくる季節、冷たい風が身に染みる。
コートの襟元を合わせながら、櫻井は赤羽について考えていた。
今朝、目を覚ました赤羽に催眠状態で何を見たのか訪ねる予定だった。
しかし、ショックが大きくまだ喋れる状態ではないと二宮が判断し、質問は見送られている。
そんな悠長なことを言っている場合だろうか？
櫻井は口元に力を込める。
茅場町で起きたビルの爆発は、いまもニュースやワイドショーのトップを飾っている。
犯人は未だ逮捕されず、動機も分からないまま、次の爆発の恐怖が日本中を覆っていた。
あの爆発に関わっているかもしれない人物を、このまま匿っていていいものなのか？
モヤモヤとした不安が胸を満たしていく。
梓ビルが見えてきた。
櫻井は窓越しに喫茶梓の店内をうかがう。
カウンターの上で丸くなっている嵐丸をマスターが撫でている。
スタッフたちの姿は見えなかった。
地下かな？
櫻井はビルの脇の路地に入ると、そこの外階段を下りて地下階へと向かう。
階段を下りきったところにある鉄製の扉を開き、『バー大野』へと入ると、松本を除くスタッフたちが薄暗い店内の奥に集まっていた。
「どうしたんですか、みんなで集まって？」
櫻井が近付いていくと、
雅紀が振り返って唇の前で人差し指を立てる。
見ると、カウンターの上に小さなポータブルテレビが置かれていた。
櫻井は雅紀の肩越しに画面を覗きこむ。
『これが、本日マスコミ各社に送られてきた声明文となります。読み上げます……』
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年11月9日 16時
