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その尋常ではない様子に圧倒され、櫻井は動くことが出来なかった。
完全にパニック状態になった赤羽の体がぐらりと揺れる。
ベッドから落ちる、櫻井がそう思った時、素早く駆け寄っていた大野がすんでのところでその体を支えた。
赤羽は大野の手も振り払おうとする。
しかし、その前に大野は素早く赤羽の両手首をつかんだ。
ただ柔らかく掴んでいるだけに見えるのだが、それだけで赤羽はほとんど動けなくなった。
大野はあくまで優しく、駄々をこねる幼児のように首を左右に振る赤羽の体を、ベッドに横たえた。
「ここまでですね」
二宮はため息交じりにつぶやくと、赤羽の目の前でぱちんと指を鳴らした。
その瞬間、赤羽は電池が切れたかのように動きを止め、目を閉じる。
「大丈夫ですか、和也さん？」
奈美が声をかけると、
二宮はおずおずと自らの右頬に触れる。
そこには一筋の引っかき傷が走り、血が滲んでいた。
「痛っ?!え、なにこれ？もしかして、怪我してる？うわっ、早く治療しないと。相葉さん、奈美ちゃん。何とかして！」
今度は二宮がパニックに陥る。
「オーバーだなぁ。ちょっと引っかかれて血が出ただけだよ。洗って絆創膏でもしておけば大丈夫だって」
雅紀が呆れ声でつぶやくと、二宮は目を剥く。
「血？血が出てるの？大怪我じゃないですか！早く止めてくださいよ！」
「もう止まってるよ。それより、どういうことなの？急に赤羽さん暴れだしちゃったじゃん。失敗したってこと？」
「失敗なんかしていませんよ」
二宮は頬を膨らませた。
「それどころか大成功です。催眠にかかりやすい体質だったみたいだから、かなり鮮明に記憶を引き出せたはずです」
「じゃあ、なんで急に暴れ出したの？」
「きっと鮮明に思い出しすぎたんですよ」
二宮は険しい表情でベッドに横たわっている赤羽に視線を向ける。
「赤羽さんにとって、家族のことは思い出したくない記憶だったんだ。きっと、彼女の家族に、なにか良くないことがあったんですよ」
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年11月9日 16時
