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「ん？大野さん、なにか言った？」
二宮は横目で大野を見る。
「一気に記憶を取り戻したら危険なんだろ。それなら一気にではなく、少しずつ取り戻させたらどうだ？それはできないのか？」
「まあ、出来なくはないよ。たしかに一気に取り戻すより危険性は低いだろうね。でも辛い記憶を取り戻すことになるかもしれないから、かなり苦しむことになる」
二宮がそう言った時、唐突にカウンターの奥の扉が開いた。
櫻井は目を見張る。
そこに立っていたのは、昨日と同じセーターにロングスカートを着た赤羽だった。
「あの、すみません。皆さん１階におられるということだったので」
赤羽がおずおずと店内に入ってくる。
奈美は慌てて席を立ち、赤羽に寄り添った。
「大丈夫ですか、寝ていなくて？」
「はい、胃の辺りが少しむかむかしますけど、だいぶ体調は良くなってきました。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「そうですか。そうだ、おなか減っていませんか？この店のモーニングセット、美味しいんですよ」
「頂いてもよろしいんでしょうか？」
「はい、もちろん。マスター、モーニングセットを１つ追加してください」
奈美が声をかけると、マスターはコーヒーを注いでいる途中のカップに視線を落としたまま、軽く片手を上げた。
赤羽の背中に手を添えながら、奈美はボックス席へと連れてこようとする。
その時、嵐丸がカウンターから飛び降り、赤羽の足元にすり寄ってきた。
赤羽は「きゃっ?！」と声を上げて後ずさった。
「あ、ごめんなさい。猫は苦手でした？」
奈美は嵐丸を抱き上げる。
「いえ、なんとなく体が勝手に……すみません」
謝ることはないですよ。
その猫は本当に危険なんだから。
櫻井はコーヒーをすすりながら、胸の中でつぶやく。
ゆっくりとした足取りで、相葉と櫻井が座るボックス席のそばにきたところで、赤羽の体が震える。
その視線は、テーブルの上に置かれた新聞に注がれていた。
雅紀は慌てて新聞をひっくり返すと、ばつが悪そうに鼻の頭を掻く。
俯いて数秒間黙り込んだ赤羽は「二宮先生」とつぶやきながら振り返った。
「え？なに？」
唐突に名前を呼ばれ、二宮は背筋を伸ばす。
「私に催眠療法というのをやってください」
「え？ええっ?!」
「すみません、皆さんの話を扉の奥で立ち聞きしてしまいました。催眠療法というので、私の記憶が取り戻せるかもしれないことも……」
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年11月9日 16時
