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店の奥にある扉が開き、二宮、大野、松本が入ってきた。
地下のバーと同じく、扉の奥にエレベーターがあり、ビルの各階と行き来できるようになっているのだ。
「あれ、噂をすれば」
「噂？
どうせ僕の悪口でも言っていたんでしょ」
雅紀の言葉に、二宮は唇を尖らせた。
目の下には濃い隈が浮かび、全身から疲労が滲んでいる。
それに対し、大野はまったく普段と変わりなかった。
「悪口なんて言ってないよ。ちょっと恋バナをしてただけ」
雅紀の表情を見て、どんな話をしていたか悟ったのか、二宮の表情が渋くなる。
「赤羽さんはどうしているの？」
雅紀は大野に話を振った。
「少し落ち着いたんで、何かあればナースコールで呼ぶように指示してきた」
大野は自分の肩を揉むと、「モーニングセットを３つ。１つは飲み物をホットココアにしてください」とマスターに頼む。
「それで、これからどうするの？さすがに、このまま悠長に記憶が戻るのを待つってわけにはいかないでしょ」
雅紀の言葉に頷きながら、大野はカウンター席に腰掛け、カウンターの上で丸くなっている嵐丸の背中を撫で始めた。
「そうだな。さすがに昨日の爆弾事件について言い当てたのは偶然だとは思えない。彼女が何者なのか調べないとな」
「俺たちで調べるんですか？」
櫻井は甲高い声を上げる。
「他に誰が調べるっていうんだ？」
「いえ、普通に考えたら警察とか……」
櫻井がおずおずと言うと、大野はゆっくりと首を振った。
「それはだめだ。俺たちは医者だ。守秘義務がある。特にうちのクリニックは、外に情報が洩れることなく治療を受けられることが売りなんだ。このクリニックの患者である彼女が拒否している限り、警察に通報するわけにはいかない」
「いや、でも、爆弾事件ですよ。それに、うちのクライアントでもないのに、ここで治療を続けるんですか？」
「彼女が昨日の爆発事件の犯人であるという確たる証拠があるならともかく、そうでない限り守秘義務が優先される。それに、クライアントである梅沢社長から、正式に治療を依頼されているしな」
迷いない口調で大野に断言され、櫻井は反論できなくなる。
「じゃあ、治療費は梅沢社長持ちなんですね」
二宮が興味なさげに言った。
「ああ、そうだ。さっき赤羽さんの症状を訊いてきて、治療費に関しては負担すると言ってきた。あと、記憶が戻ったら一度話したいとか言っていたな」
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年11月9日 16時
