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「最上階だな。行くぞ」
猪原はスープで濡れた口元を拭って、
出口へ向かう。
信二は慌ててあとを追った。
猪原とともにエレベーターに乗り、
信二は最上階である13階へと到着した。
薄暗い廊下が左右に延びている。
猪原がエレベーター脇のスイッチを入れると
蛍光灯の漂白された光が廊下を照らし出す。
眩しさに信二は目を細めた。
この茅場町ビジネスパレスは五年ほど前に建
てられたオフィスビルだった。
各フロアには二、三社のオフィスがある。
この13階にはエレベーターの右側に旅行代理
店が、左側に証券会社が入っていた。
「お前は旅行代理店の方を探せ、俺は証券会
社の方に行く」
猪原が素早く指示をする。
頷いて廊下を小走りに進んだ信二は、旅行代
理店の入り口扉の前に着くと、ポケットから
マスターキーを取り出す。
ふと振り返ると、猪原が証券会社の扉を開け
中に入るところだった。
本当に爆弾などあるのだろうか？
鍵穴にマスターキーを差し込みながら、
信二は人気のない廊下を見回す。
このビルは午後10時に閉鎖することになって
いる。そのため、いまは自分と猪原以外にこ
のビルに人はいない。
もし本当に爆弾があったら、危険なのは自分
たちだけだ。
急に恐怖をおぼえ、手が震えはじめる。
うまく鍵を回せない。
いたずらだ。
あんなのいたずらに決まっている。
必死に自分に言い聞かせながら、何とか扉を
開いた信二は、旅行代理店のオフィスへと入
っていった。
室内にはパソコンが置かれたデスクが数十並
んでいた。蛍光灯をつけた信二は、フロアを
足早に見て回る。
デスクの下、ロッカー、積み上げられた段ボ
ールの中などを素早く探していくが、それら
しいものは見つからなかった。
腕時計の針を見る。
時刻は午後11時53分になっていた。
やっぱりいたずらだったんだ。
そう思った時、遠くから声が聞こえた。
反射的に振り返った信二は、
急いで廊下に出る。
「真鍋ぇー！」
やはり廊下の奥から猪原の声が響いていた。
信二は廊下を駆けていく。
「猪原さん、どこですかー？」
信二は声を張り上げる。
「ここだ！給湯室の中だ！」
証券会社の手前にある給湯室。
そこから声は聞こえてきていた。
中を覗き込むと猪原が這いつくばってシンク
の下を覗き込んでいた。
太っている猪原がそういている姿は、必死に
エサを食べている豚を彷彿させた。
「何をしているんですか？」
訊ねると、猪原はゆっくりと立ち上がった。
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年11月9日 16時
