大野クリニックで祝杯を－淡雪の記憶－ (ページ14)

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でかい家だな……。

櫻井は門扉の奥に見える邸宅を眺める。

バスケットコート2つ分ほどの敷地の中心に、三階建ての洋風邸宅が建っていた。

いくら都心からはある程度離れているとはいえ、かなり金がかかっているだろう。

大野がインターホンを押すと、
すぐにスピーカーから男の声が響いた。

「大野先生か？」

「はい、大野です。
中に入ってもよろしいですか？」

「ああ、入ってきてくれ、早く！」

上ずった男の声が言う。

正門を開き、芝生が敷き詰められた庭を横切って玄関前まで来ると、扉が開いた。

中から中年の男が顔を出す。
髪は薄く、かなり太っている男だった。

「ありがとう、大野先生。助かった」

「緊急ということでしたから。
それでどうされましたか、梅沢社長？」

大野が慇懃に答えると、
梅沢は「上がってくれ」と手招きをした。

なんというか、成金趣味だな。

櫻井は吹き抜けになっている玄関を見回す。

壁にはなにが描かれているのかはっきりしない抽象画や、人の身長ほどの龍の彫像が飾られていた。

床は大理石なのか、やけに光沢がある。

梅沢は「こっちだ！」と足早に進んでいく。

「もしかして、ご家族の調子が悪くなったりしましたか？」

「いや、妻と娘たちは海外旅行に行っている。
そうじゃないんだ」

大野の質問に、梅沢は忙しなく首を振る。

「ここだ。この部屋に入ってくれ」

梅沢は廊下の中ほどにある扉を開いた。
櫻井は大野の肩越しに中を覗き込む。

そこはリビングダイニングになっていた。
広さはゆうに20畳はあるだろう。

高級感のある木製のダイニングテーブル、革張りの大きなL字ソファー、80インチはありそうなプラズマテレビ、部屋の奥には本格的な暖炉まである。

全面ガラス張りの窓の外には、広々とした裏庭が広がっていた。

「で、この部屋になにがあるわけ？」

ようやく車酔いから回復してきたのか、
二宮が部屋の奥に進んでいく。

「この暖炉、本物なの？本当に火をつけたり……」

そこまで言ったところで、二宮は言葉を切って固まった。

「どうしたの、にのちゃん？」

続いて部屋に入った雅紀が訊ねると、二宮は無言のまま暖炉脇のL字ソファーを指さした。

入口からでは、ソファーの背で死角になって見えないが、そこに何か置かれているらしい。

「何があるって……」

二宮に近づいた雅紀は、
切れ長の目を見開いて絶句した。