大野クリニックで祝杯を－淡雪の記憶－ (ページ11)

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櫻井以外のスタッフ達もそのことに慣れきってしまい、もはや大野と一緒にトラブルを楽しんでいる節さえあった。

「けど、山下さんが帰ってくるまで、
この子どうしましょう？」

腕の中で目を細めいている猫を見ながら、
奈美は小首をかしげる。

「えーここに置いてあげればいいじゃん。さすがにクリニックのスペースに入れるのは問題だけど、5階の大ちゃんと奈美ちゃんの居住スペースなら大丈夫でしょ？」

雅紀は猫の喉元を指先でくすぐる。
猫はゴロゴロと喉を鳴らした。

「それでも構わないんですけど、日中は家にいないから、この子、独りぼっちになっちゃうし、時々出張治療とかで家を空けるときも……」

奈美は困り顔でつぶやく。

「それなら、昼はこの喫茶店に置いておけば？ここならマスターが居るから、この子も独りぼっちにはならないでしょ？」

「えっ、でもここ飲食店だし……動物いても大丈夫ですか？」

「大丈夫大丈夫、世の中には猫カフェなんてものもあるんだから」

雅紀はマスターに
「ね、いいでしょ？」と声をかける。

コーヒーを淹れていたマスターは視線を手元に注いだまま、かすかに頷いた。

「それじゃあ、ここの看板ネコに就任だね。
ちゃんと客を招くんだよ」

雅紀がポンポンと頭をたたくと、猫は返事でもするかのように「なー」と鳴いた。

「えっ、そいつここに置くんですか？」

櫻井は思わず声を上げてしまう。

この喫茶店でモーニングを食べるのが、
櫻井の日課だった。

「だめですか？翔さん、猫嫌いですか？」

奈美は上目遣いに視線を送ってくる。

その大きな目で見つめられると、奈美に密かな恋心を抱いている櫻井としては、嫌とは言えなくなってしまう。

「いや、そういうわけじゃ……ただ、そいつ俺のこと嫌っているみたいだし……」

櫻井がしどろもどろに言うと、奈美はにっこりと微笑んだ。

「さっきは追いかけられて怖がっていただけですよ。ほら、いまはこんなに大人しい。翔さんも抱っこしてみます？」

奈美は猫を差し出してくる。

仕方なく、おずおずと櫻井が手を伸ばすと、それまで大人しく体の力を抜いていた猫は、突然「シャー！」と威嚇の声を上げ、パンチを放ってきた。