__ ページ48
・
仕方なくポケットからスマートフォンを
取り出すと、液晶画面の放つ弱々しい光で
周囲を照らす。
「三森先生、いらっしゃいますか？」
警戒しつつ声をあげるが返事はない。
靴を脱ぐことなく、膝を軽く曲げ重心を
落としたまま、櫻井はすり足で短い廊下を
進んでいく。
足に何かが当たった。
目を凝らすとゴミ袋が散乱している
ようだった。
ゴミ袋を避けながら廊下の突き当たりまで
進んだ櫻井は、そこにあるドアのノブを掴む
と勢いよく開いた。
ドアの奥は八畳ほどの部屋になっていた。
窓から街灯と月の光が入ってくるため、
廊下より幾らかは部屋の様子が見てとれる。
かなり散らかった部屋だった。
廊下と同じようにゴミ袋がいくつも置かれ、
部屋の中心にあるローテーブルの上には
ペットボトルやビール缶らしきものが
散乱している。
櫻井の視線は部屋の奥、窓際のベッドに
注がれていた。
そこに誰かが横たわっている。
「……三森先生？」
櫻井は声をかけるが、熟睡しているのか男は
微動だにしない。
櫻井はゆっくりと部屋を横切っていく。
ベッドの傍まで移動した櫻井は目を見張る。
「なんで……こいつが……」
無意識に口からかすれ声が漏れる。
ベッドに横たわっていたのは
三森ではなかった。
しかし、月光に薄く照らされたその顔に
見覚えがあった。
腫れぼったい一重の目、曲がった鼻、
そして角刈りの頭。
鍋島、川崎のマンスリーマンションで櫻井に
殴り倒され、そして拳銃を向けてきた男。
開いた厚い唇の隙間からは舌がだらしなく
のぞき、その瞳は焦点が合わないまま天井を
向いている。
櫻井はおずおずと鍋島の首元に手を伸ばす。
首筋に触れた指先に頸動脈の拍動を触れるこ
とはなく、そして皮膚は弾力を失っていた。
死亡してから数時間は経っている。
よく見ると、鍋島の首には線上の痕が
走っていた。
策条痕、絞殺されたときにつく痕。
三森はいったいどこにいるんだ？
なんでここで鍋島が死んでいるんだ？
脳細胞が焼き付いたかのように思考は
乱れに乱れる。
櫻井は必死に深呼吸をして、
茹で上がった頭を冷やそうとする。
「……はめられた」
僅かに落ち着きを取り戻した櫻井は呟いた。
罠だった。
三森達は身元が割れた鍋島を粛正し、
その罪をなすりつけるつもりだ。
櫻井はここに来るまでの自分の行動を
思い起こした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 744人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あきら(プロフ) - 初めまして楽しく拝見してます。リクエスト募集中と云う事なので、私は山担なのでそれも赤さんを全力で守る青さんが大好きです。なので赤さんが弁護士で危険な案件に係わって、それを元刑事の青さんが助ける!サスペンスドラマ大好きなので、ハラハラドキドキしたいです (2021年9月23日 18時) (
レス) @page47 id: 0cb62e1ff0 (このIDを非表示/違反報告)
未翔(プロフ) - いちごさん» 嬉しすぎます！お気になさらず、ぜひ是非楽しんでいってください！ (2021年9月23日 17時) (レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
いちご(プロフ) - ありがとうございます。作品とても楽しくて夢中になって読ませて頂いていました。そそそそれなのに。本当にごめんなさい。 (2021年9月21日 20時) (レス) id: f705c60b1b (このIDを非表示/違反報告)
未翔(プロフ) - いちごさん» 全然大丈夫です！！評価ボタンを押そうとして頂いただけで幸せです👏🏻 (2021年9月21日 18時) (レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
いちご(プロフ) - 10を押そうとした時猫が来て手が滑りました。ごめんなさい。 (2021年9月21日 14時) (レス) id: f705c60b1b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：未翔
| 作成日時：2021年5月25日 21時
