大野クリニックで祝杯を２【ARS】 (ページ7)

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男の顔が歪んだ。

「足を止めるな。常にフットワークを使い
ながら打撃を叩きこんでいくんだ」

小さな声で大野が囁いてきた。

やるつもりだ。
櫻井は覚悟を決める。

小太りの男は首だけ振り返り、背後に立つ
大男に目配せをする。

大男は軽く頷くと前に出た。

大野もゆっくりと足を進める。
二人の距離がせばまっていく。

大野もかなり体格が良いが、大男は身長も
体の厚みも大野より一回り上だった。

水を打ったような静寂が辺りを支配する。

次の瞬間、大男は大野の顔面に向けて、
ハンマーのような右拳を振るってきた。

大野は手をだらりと下げたまま、その場で
立ち尽くしている。

殴り倒される。

櫻井がそう思った瞬間、大野は左側に
体を開いた。

滑るかのような自然な動き。
櫻井は目を大きく見開く。

拳が空を切り、その勢いで大男は
前のめりになる。

大野は右足で軽く大男の足を払った。

バランスを崩した大男は「うおっ?!」と
声を漏らすと、その場に膝をつく。

大野は撫でるかのようにさりげなく、
ひざまずいている大男の後頭部に
右手を添えた。

大男はその厳つい顔に不思議そうな表情を
浮かべ、大野を見上げる。

その瞬間、大野は右手で軽く大男の頭部を
引きつけると、自らの右膝を叩きこんだ。

こめかみに膝蹴りの直撃を受けた大男の体は
糸が切れた操り人形のようにその場に
崩れ落ちる。

櫻井はその光景を見ながら、
口を半開きにして立ち尽くしていた。

「いくぞ！」

大野が振り返って声を掛けてくる。

「一気にかたをつける。翔くんは溢れてきた
奴らを後ろに行かせないようにしてくれ」

そう言い残すと、大野は軽く体を前傾させ
走り出す。

「あっ?!あいつをやれ！」

小太りの男が上ずった声をあげるが、大男を
一瞬で叩きのめされ硬直している男達は、
すぐには反応できなかった。

立ち尽くしている男達の中に走り込んだ
大野は、正面に立つ男の腹部に前蹴りを
叩きこむと、横から慌てて組み付こうとして
きた男の顎を肘で跳ね上げた。

二人の男は同時にその場に崩れ落ちる。

近くにいた仲間が倒されてようやく我に
返ったのか、男達は怒声を上げながら次々と
大野に襲いかかり始める。

しかし、大野は掴みかかり、殴りかかって
くる手を流れるような動きでかいくぐって
移動しつつ、男達に次々に鋭い打撃を
叩き込み、時には投げ飛ばしていった。

舞を踊っているかのような流麗な動きに
櫻井は目を奪われた。