大野クリニックで祝杯を２【ARS】 (ページ45)

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「なに？そんなに今日の手術の助手
したかったの？」

「そうじゃなくてさ……」

怪訝そうに眉をひそめる雅紀に向かって、
背伸びをした二宮が耳打ちする。

「ああ、なるほどね」

雅紀の顔にどこか
いやらしい笑みが浮かんだ。

「……なんですか？」
「いやあ、翔ちゃん可愛いなと思って」

雅紀は櫻井の頭を撫でる。

「やめてください」

櫻井はかぶりを振った。

「そんなことより、いいから早く戻ろうよ。
こんな所にいても、住吉美寿々がどこに消え
たかなんて分からないでしょ」

「……そんなことない」

和室に入っていた松本は勉強机の前の椅子に
腰掛ける。

「どういうことですか？」

櫻井が訊ねると、松本は無言のまま
デスクトップパソコンの電源を入れた。

古い型らしく、パソコンは唸るような
騒動音を立てる。

たっぷり１分以上の時間をかけて起動した
パソコンの液晶画面には、パスワードを要求
するウィンドウが表れた。

松本はスーツの懐からUSBメモリを取り出しそれをパソコンに差すと、ピアノを弾くかのように滑らかな指使いでキーボードを叩いていく。

次の瞬間、液晶画面が無数のアルファベット
と数字で覆いつくされた。

それらの文字は上から下へと凄まじい
スピードで流れていく。

画面の中心に９つの四角が現れた。

「これって……？」

松本の肩越しに櫻井は画面を覗き込む。

「……パスワードクラックソフト。世界中に
溢れているソフトに俺がオリジナルの改造を
加えたものだ。……普通のパソコンなら３分
ぐらいでパスワードを破れる」

松本の口調は普段通り平板なものだったが、
櫻井にはわずかに誇らしげに聞こえた。

そのとき、一番左の四角の中に『S』の文字
が表示される。

「……最初の文字は『S』で９文字のパスワ
ードだ。あとは待てばいい」

松本は息をつくと、椅子の背もたれに体重を
かける。

そのとき、いつの間にか近づいてきていた
二宮が横からキーボードに手を伸ばし、
『Esc』のボタンを押す。

画面から文字の奔流が消え去り、再び
パスワードを要求する画面へと戻った。

「……なにするんだ」

松本が剣呑な声を出す。

「最初が『S』で９文字でしょ。それだけ
分かれば十分ですよ」

二宮は人差し指でぎこちなくキーボードを
押していく。

いくつかの文字を入力し、最後に『Enter』
を押した瞬間、パスワードが解除された。

櫻井が「なんで……？」と目を見張ると
二宮は得意げに鼻を鳴らした。