大野クリニックで祝杯を２【ARS】 (ページ44)

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「ほら、翔ちゃん。誰か来ないか見張って。
見つかったら面倒だから」

「見つかったら面倒になるようなこと、
しなければいいんです！」

「それじゃあ事件を解決できないじゃん。
いい、翔ちゃん。もし誰かに見つかったら
『警察の方から来ました』って言うのよ」

雅紀は真剣な顔で言う。

「……そんな嘘つくんですか？」

「嘘なんかじゃないよ。『警察から来た』
じゃなくて『警察の方から来た』って言う
んだから。たぶん、俺達が来た方角に１つ
ぐらい警察署があるよ」

「そんな詐欺みたいな……」

櫻井が呆れていると、カチリと音が響いた。

「開いた……」

つまらなそうに呟いた松本は、立ち上がると
ドアノブに手をかけた。

扉がぎぎっと軋みながら手前に開いてくる。

もう開いたのか？
驚きで櫻井は目を丸くする。

まだ１分と経っていない。

奈美から松本の鍵開けについては聞いていた
が、まさかここまでとは……。

「さすが潤ちゃん。それじゃあ行こう」

雅紀はまるで自宅に入るかのような気軽さで
部屋に入っていった。

１DKのかなり年季の入った部屋だった。
壁や天井には汚れが目立つ。

台所には食器や調味料が乱雑に置かれており
ダイニングには所々破れたソファーと小さな
テレビ、ローテーブル、そして古い化粧台が
あった。

六畳の和室には旧式のデスクトップパソコン
がのった子供向けの勉強机があり、その脇に
２組の布団がたたまれている。

「化粧品もほとんど置きっ放し。
かなり慌てて出て行ったみたいだね」

雅紀は化粧台の抽斗を覗き込む。

松本はぶつぶつと呟きながら、部屋の中を
徘徊していた。

冷蔵庫の中を覗き込んだ二宮が「うわっ、
腐ってるじゃん」と慌てて扉を閉める。

思い思いの行動をしている３人を見て、
櫻井は少しずつ苛立ってくる。

「何をしているんですか？俺達不法侵入して
いるんですよ。ここに住吉美寿々っていう人
がいないことは分かったんだから、さっさと
退散しましょうよ」

「あれ、翔ちゃん、なんか機嫌悪い？
もしかして、あの日？」

「あの日なんてありません！」

下らない冗談に櫻井は唇をゆがめる。

雅紀はどこか楽しげに「あれま、
本当に機嫌悪いなぁ」とつぶやいた。

「あれですよ、大野さんが奈美ちゃんと手術
しているのが気にいらないんですよ」

二宮が皮肉っぽく言う。
図星をつかれ櫻井は言葉に詰まった。