大野クリニックで祝杯を２【ARS】 (ページ31)

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「あっ、そうなんですか。けれど、本当に
意識戻るんですかね」

櫻井は藤原の病状を思い起こす。

一週間前、猛スピードで走行するバンから
投げ落とされた藤原は、キャンピングカー
内で松本によって麻酔導入され、大野の
緊急手術を受けながら大野クリニックへ
搬送された。

大野は揺れるキャンピングカー内にも
関わらず、助手の雅紀とともに、激しく出血
している藤原の脾臓と右腎臓を素早く摘出し
止血してみせた。

そして、梓ビルの地下駐車場に到着すると、
エレベーターを使って４階の手術室に素早く
搬送し、そこで損傷している肝臓の修復や、
四肢の骨折の治療を行った。

大野の素早く正確な処置のおかげで藤原は
何とか一命を取り留め、その後いつも使って
いる青山第一病院の秘密病棟へと運ばれた。

しかし、脳内出血こそしていないものの頭部
のダメージも大きく、さらに呼吸状態と安定
していないということで、鎮静をかけて人工
呼吸管理を行ったまま、松本が術後管理を
受け持つことになっていた。

「潤くんが一週間つきっきりで管理したんだ
から大丈夫だよ。あの人、どんな難しいこと
でもいとも簡単にこなす完璧超人だから」

後頭部で両手を組む二宮の言葉を聞いて、
櫻井は眉根を寄せる。

たしかに松本は超人的な頭脳を持っているこ
とは、この１ヶ月ほどの付き合いで何となく
分かっていたが、普段の何事にもやる気を
出さない様子は『完璧超人』というイメージ
とはかけ離れていた。

「ああ、今でこそあの人、冬眠中のクマみた
いにやる気出さないけど、大学時代はイケイ
ケの天才児だったんですよ。試験では当然
いつもダントツの一位、スポーツも万能で
テニスの大会で優勝したりしていたからね。
まあ、自信過剰の嫌な奴でしたね。
大学四年生ぐらいまで」

「潤ちゃん、すごいイケメンだからね。
そりゃ若い女の子だとコロッと
いっちゃうよね」

雅紀は色っぽく髪を掻き上げる。

「松本先生が自信過剰？……イケメン？」

櫻井は目をしばたたかせた。

「あれ、翔ちゃん気づいてないんだ。
野暮ったい前髪と眼鏡のせいで
ダサく見えるけど、潤ちゃんって物凄く
顔整ってるんだよ」

櫻井は「はぁ」と返事なのかため息なのか
曖昧な声をだす。