大野クリニックで祝杯を２【ARS】 (ページ21)

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「おい、聞こえるか？」

櫻井は男に声をかけ、意識状態を確認する。

男のたらこのように腫れた唇の隙間から、
「ううっ」とうめき声が漏れた。

「意識があるんだな？聞こえているな？」

再び櫻井が声をかけると、男はかすかに
頷くような仕草を見せた。

櫻井は男の右手の手首に指を添わせる。
指の腹にかすかに拍動が感じられた。

橈骨動脈が触知できるなら、最低限の
血圧は維持できている。

かなり厳しいが、すぐに処置をすれば救命
出来るかもしれない。

櫻井は振り返って奈美を見る。

奈美はスマートフォンを耳に当て、なにやら
喋っていた。

おそらく救急車を呼んでいるのだろう。

「名前は言えるか？」

奈美が必要なことをやっているのを確認した
櫻井は、男に訊ねる。

「ふ、ふじわら……」

蚊の鳴くような声で男は言った。
その名前を聞いて、櫻井は耳を疑う。

「藤原？君が藤原なのか？あのマンションの
最上階に住んでいる藤原？」

「なんで……俺のことを……？」

男の口調に警戒の色が滲んだ。

「そんなことより、君が藤原だとしたら
あの男達は誰なんだ？」

櫻井は勢い込んで藤原と名乗った男に
訊ねる。

「分からない……。なにがなんだか……」

藤原は弱々しく咳き込むと苦し気にうめき
右手で喉元を押さえる。

「どうした？」

櫻井が慌てて訊ねるが、
藤原が答えることはなかった。

藤原の手がだらりと垂れ下がる。
櫻井は慌てて藤原の首筋に指を触れる。

しかし、頸動脈の拍動を触れることは
出来なかった。

血圧が低下して失神した？
今まで血圧は保てていたはずなのに？

胸腔や腹腔内で大量に出血している
のだろうか？

いや、そうだとしても血圧の低下が
早すぎる。

必死に血圧低下の原因を探る櫻井は、
藤原の首に太い血管が浮き上がっていること
に気づく。

小さな蛇が皮膚の下を這っているかのように
怒張した頸動脈、櫻井は目を見張ると、
藤原の着ているワイシャツに両手をかけ、
左右に思い切り力を込める。

ボタンがはじけ飛び、あばらが浮き出るほど
に痩せた上半身が露わになった。

櫻井は藤原の胸に左手を添えると、鉤状にした
右手の人差し指と中指で打診を行う。

太鼓のように小気味いい音が
鼓膜を揺らした。

櫻井の表情が歪む。

気胸を起こしている。
しかも状況から見ると、緊張性気胸だ。