大野クリニックで祝杯を２【ARS】 (ページ17)

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振り返ると、マスクの男達がエレベーターの
そばに停められていたミニバンに
乗り込んでいた。

男の一人が運転席に座り、残りの二人が
開いた後部ドアに金髪の男を
押し込んでいる。

金髪の男を車内に押し込んだ男が、
振り返って再び銃口を向けてくる。

櫻井は奈美を抱きしめると、素早くそばに
あった柱の陰に飛び込んだ。

あいつら、いったい何なんだ？

混乱と恐怖でオーバーヒートしそうな頭を
必死に冷ましながら櫻井は考える。

藤原という男とその仲間が、大野達の接近に
気づいて逃げ出したという事なのだろうか？

しかし、そうだとするとあの金髪の男は？

状況ははっきりしないが、とんでもないこと
に巻き込まれてしまったことだけは確かだ。

まさかこの日本で拳銃を向けられるなんて……

男達はこのまま立ち去ってくれるだろうか？

まだ拳銃で襲ってくるなら、奈美だけでも
守らなければ。

息を殺していると、タイヤが地面とこすれる
音が響いた。

柱の陰からわずかに顔を出して様子を伺うと
バンが凄まじいスピードで地下駐車場の出口
へと向かっていくところだった。

櫻井は大きく安堵の息を吐く。

「あの……櫻井さん。ちょっと苦しいです」

腕の中からか細い声が聞こえてくる。

視線を下ろすと、奈美が頬をかすかに赤らめ
ながら、櫻井の顔を見上げていた。

「ご、ごめん」

櫻井は慌てて抱きしめていた腕を開く。

「いえ、守ってくれてありがとう
ございます。……嬉しかったです」

奈美は恥ずかしそうに俯くと、上目遣いに
櫻井を見る。

「それより、早く行きましょう」
「え、行くって？」

意味が分からず、
櫻井は目をしばたたかせる。

「早くあのバンを追わないと
見失っちゃいます。乗って下さい」

奈美はミニに駆け寄る。

「まさか、あの男達を追うつもり?!」

「当たり前じゃないですか。
急いで下さい！」

奈美は微塵の迷いも見せず、扉を開けて
運転席に乗り込む。

櫻井を真っ直ぐにみる奈美の眼差しからは
たとえ一人でもあのバンを追うという強い
意志が伝わってきた。

一瞬躊躇したあと、櫻井はミニに乗り込む。

「行きますよ！」

櫻井が助手席に座ると同時に、奈美は
イグニッションキーを回した。

座席の下でエンジンが唸りをあげ、臀部に
振動が伝わってくる。

追いつかないだろうな。

険しい顔でハンドルを握る奈美の横顔を
見ながら、櫻井は胸中でつぶやいた。