大野クリニックで祝杯を２【ARS】 (ページ15)

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「俺には、みんなみたいな特殊な能力は
ないけれどね」

「そんなこと気にしなくて良いですよ。
私だって別に取り柄なんてないですから。
それに、さっき大活躍だったらしいじゃない
ですか。雅紀さんから聞きましたよ」

奈美は両手を突き出して、
パンチのまねごとをする。

「大活躍って言っても、大野先生は俺より
ずっと凄かったからな……。大野先生って
何者なわけ？とんでもなく手術が上手いうえ
あんなに強いなんて」

櫻井が訊ねると、奈美は人差し指をあご先に
当てた。

「私が聞いた話では、フランスの外人部隊で
衛生兵をやっていたとか……」

「ああ、なるほどね……」

櫻井は納得する。

外人部隊というのがどういうものなのかは
よく知らなかったが、たしかに軍隊なら
外傷などの手術をする機会も多そうだし、
一対多を想定した格闘技術も
発達しているだろう。

「そう言えば、奈美さんはなんで大野先生の
クリニックで働くようになったの？」

話をしているうちに空気が解けてきたので
櫻井は前々から気になっていたことを
訊ねる。

一風変わった者達が集まる大野クリニックで
奈美だけがまともで、逆に少し浮いている
ように感じていた。

「３年前、智さんがクリニックを作るとき
私に一緒に働かないかって誘ってきてくれ
たんです。その時、まだ私は看護師になった
ばっかりだったんで、どうしようか迷いまし
たけど智さんが一人前のナースになれるよう
に指導してくれるって言うんで。それに
智さん、私がついてないとダメなところが
あるから……」

……ああ、やっぱりそうなのか。

はにかむ奈美を眺めながら、櫻井は
弱々しく微笑む。

うすうす感づいていたが、やはり大野と奈美
は恋人なのだろう。

二人の間に院長と従業員というだけではない
雰囲気が漂っているのを、櫻井はなんとなく
感じていた。

久しぶりに、けっこう本気で惚れていたのに
また失恋か……。

奈美に気づかれないように小さくため息を
吐いた瞬間、櫻井は目を見開く。

エレベーターの扉がゆっくり
開きはじめていた。

奈美も「あっ！」と声をあげる。

藤原という男が降りてきたのだろうか？
そうだとすると、捕まえるべきなのか？

これまでのことから察するに、
藤原という男が川奈雄太殺害に関わっている
可能性は高い。

しかし、あくまでそれは可能性があるという
だけだし、そもそも警察でもない自分達に、
容疑者を拘束する権利などない。