大野クリニックで祝杯を２【ARS】 (ページ13)

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櫻井は目を凝らして、20メートルほど先に
見えるエレベーターの扉を眺める。

扉の横には電子ボタンと鍵穴が見えた。

おそらく、鍵をさして暗証番号を打ち込む
ことで使用出来るのだろう。

このエレベーターには、簡単に駐車場へ
向かえるという意味ももちろんあるが、それ
以上になにか危険が及んだ際の逃走経路と
しての意味合いが見て取れた。

最初から堅気ではない人間の居住を想定して
作られていたのかもしれない。

櫻井は奈美とともに地下駐車場で、
このエレベーターを見張っていた。

現在、マンションのフロントが見える路肩に
停車したキャンピングカーには雅紀が残り、
大野、二宮、松本の三人がマンションへの
潜入を試みている。

「……大野先生達、マンションに
入れたかな？」

沈黙に耐えきれなくなってきた櫻井が、
話題を探して口を開く。

奈美は横目で櫻井を見ると、にっこりと
屈託のない笑みを浮かべた。

「きっと大丈夫ですよ」

そうだろうか？

大野達の作戦では、まずマンションに帰宅
する人間を待ち、入り口の自動扉を開けた
ときに同時にマンション内に入り込んで、
そのまま最上階に向かう。

そこからは臨機応変にという、適当極まり
ない計画だった。

「でもさ、最上階に行けても、そこから
どうやって部屋に入るつもりなわけ？」

「松本さんがいるから、なんとかなると
思いますよ」

「松本先生が？」

「はい、松本さん、鍵開けは得意ですから。
10分ぐらいあればほとんどの鍵を開け
ちゃうんですよ。あと電子タイプの鍵でも、
結構簡単にハッキングして開けることが
出来るって言ってました」

「……そんなこと可能なの？」

「松本さんいわく、『……この世にある全て
の鍵の構造と、その開け方を調べて、後少し
練習すれば簡単だよ』ってことです」

奈美は松本の口調を真似ながら言う。

「この世にあるほぼすべての鍵って……、
それってものすごい量なんじゃないの？」

「松本さんなら覚えられちゃうんですよ。
一度読んだ本の内容は絶対に忘れないん
ですって」

容易には信じられないほどの記憶力だ。

しかし、カジノでの常人にはまず不可能な
方法での勝ちっぷりを見ると、おそらく
本当なのだろう。

「鍵破りは、うちに入ってから、必要に
なるだろうって覚えたみたいですね」

無邪気な口調で言う奈美を前にして、
櫻井の眉間にしわが寄っていく。