__ ページ9
・
途方に暮れた櫻井は、
学生時代に所属した同好会の先輩で、
今もよく顔を合わせている女性医師に
相談をした。
すると、大学の外科医局に所属している彼女は「うちの医局の三森教授が顔広いから相談してみたら？」と言いだしたのだった。
その三森教授こそ、卒業時に万年筆を
贈ってくれた恩師だった。
けれど、ここもだめなのだろう。
櫻井は俯きながら肩を落とす。
三森教授は、
「私が親しくしているドクターに
紹介しよう。あそこなら、
きっと君を受け入れてくれるよ」
と言ってくれたが、
大野の反応を見ると、おそらく
ここでも門前払いされるのだろう。
自分が本当に酒に酔って患者を
死なせてしまったかは分からない。
しかし、半年前に患者を
救えなかったことに違いはなかった。
その贖罪として自分に出来ることは、
医師として身を粉にして働き、
患者を救い続けることだと思っていた。
そもそも、それが
間違いだったのかもしれない。
自分はもはや医師として
働く資格はないのかもしれない。
重い音とともに入り口の扉が開いた。
見るとワンピース姿の若い女性が、
コーヒーカップの載った盆を片手に
引き戸を開けていた。
「相変わらず重いなぁ、この扉」
呟きながら部屋に入った女性は
大きく息をつく。
年齢は20代前半ぐらいだろうか。
小柄で、顔の割に
大きな二重の目が特徴的だった。
「智さん、コーヒー持ってきましたよ」
女性はポニーテールの黒髪を揺らしながら
快活に言う。
「ああ、ありがとう。
櫻井くん、うちのナースの奈美だ」
大野が紹介すると、
奈美と紹介された女性は可愛らしい笑顔を
浮かべながら近づいてきて、
テーブルにコーヒーカップを置いた。
「はじめまして。月山奈美っていいます。
1階の喫茶店で淹れてもらった
コーヒーです。美味しいですよ。
砂糖とミルクはつけますか？」
「あ、いえ、……ブラックで」
微笑みかけられた櫻井は、
胸の中で心臓が跳ねるのを感じながら
上ずった声で答える。
なぜか奈美の顔から視線を外せなかった。
奈美は小さく会釈をすると離れていき、
カウンターに近づいていく。
その華奢な背中を目で追ってしまう。
「奈美ちゃん。
僕はコーヒーはちょっと……」
二宮の口がへの字になる。
「分かってます。
和也さんのはホットココアですよ」
二宮は笑顔でカップを受け取った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 756人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
未翔(プロフ) - あきさん» 読んで頂いてありがとうございます！ここから更に急展開ですのでお見逃し無く！！ (2021年5月25日 22時) (
レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
未翔(プロフ) - shioribaron0307さん» ありがとうございます！ (2021年5月25日 22時) (レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
あき(プロフ) - うわぁ〜急展開！！ワクワクしますね。続きを楽しみにしてます。 (2021年5月25日 15時) (レス) id: de45e6159d (このIDを非表示/違反報告)
shioribaron0307(プロフ) - お話面白かったです。続き楽しみにしています！ (2021年5月22日 14時) (レス) id: 7628593eb6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：未翔
| 作成日時：2021年5月15日 12時
