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春先の温泉。
少し冬の寒さが残るこの気候は温泉に入ることを考えるとこの上ない好条件だ。
いつもより少し早いマネージャーの迎え。
けれど彼と合流するのは現地。
いつからだろうか。
彼だけに限らずメンバー同士で移動をしなくなったのは。
いや、しなくなったのではない。
正確には仕事が増えるにつれて
それが難しくなっただけのことだ。
不思議と俺はそれを寂しく思っていたのだろう。
相葉くんと居る時に感じる落ち着きには、
そんな懐かしさに似た何かも感じていた。
・
「おはよう翔ちゃん」
「おはよ、なに？珍しく眠そうじゃん」
「夜中までこれと向き合ってたもんで」
そう言ってスマホの画面を俺に見せる彼。
ドヤ顔で見せつけられた画面には想像もつかないようなハイスコアが記録されていた。
「流石だわ」
「まぁゲームする時間削って寝てますから安心してくださいよ」
「逆に安心できないわ」
いつもの彼とのやり取りだ。
ここまで話せるようになった。
あの時はこうして話すことは愚か、
傍にいることすら辛くて。
そんな情けない俺に優しい言葉を掛けてくれた相葉くん。
俺はまだニノのことが好きなのだろうか。
最近ではよく考えるようになっていた。
相葉くんを好きになれたらどんなにいいかと。
彼の気持ちに応えたいと。
けれど、こんな気持ちのまま相葉くんに噓をつくことはもっと彼を傷つけてしまう。
それだけは嫌だった。
「あの、櫻井さん二宮さん」
軽い雑談を終えて休憩していたところに、この企画の担当ディレクターさんに呼ばれた。
「本日泊まる宿で夕食のシーンを撮るって話してたじゃないですか。その後はお二人の好きなようにして頂こうと思っているんですけど。何かしたい事とかありますか？」
したい事…
簡単に思い付くはずもなく隣の彼の様子を伺う。
「どーします？翔ちゃん。
何ならそのまま一緒に寝ちゃう？」
「へ？」
分かっている。
これは彼が冗談を言っているときの顔ではないか。
なら冗談で返せ、返せよ俺。
「いいですね！櫻井さんもどうですか？」
「どう？翔ちゃん」
乗り気なディレクターと
俺の返答を待つニノ。
そうするべきだ
と言う仕事に生きる俺。
そうしたいのか
と疑心暗鬼になる俺。
願ったり叶ったりではないか
と言う昔の俺。
『自分の気持ちに素直になりな、翔ちゃん』
戸惑う俺に彼の声が聞こえた。
「やりますか？
危ないシーン撮れても知りませんからね？」
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年1月14日 9時
