陸王

3-4 ページ35

熊谷シティマラソン当日


｢た、立原さん、おち、落ち着いていきましょうね｣


｢まずお前が落ち着け｣


そう言って突っ込む裕人を見て立原さんが笑顔になる


｢Aちゃんが俺の分まで緊張してくれてるからいつもより落ち着いて走れそうだよ｣


なんて話をしていると立原さんは監督に呼ばれて行ってしまった


｢どうしよう、みんなの緊張一気に背負ってる感｣


｢勘違いだから｣


｢あれ、Aちゃん？｣


名前を呼ばれて振り向くと直と声の主であろう吉田さんがいた


｢吉田さん！！｣


｢久しぶりー、Aちゃんも茂木も｣


｢お久しぶりです｣


｢お久しぶりですー！元気でした？｣


｢元気元気！Aちゃんも元気？｣


｢めっちゃ元気です！｣


｢あはは、なんとなく伝わる｣


｢ところで吉田さんってアジア工業だったんですね？｣


｢え、うそ。先輩の就職先忘れることってある？｣


｢まぁ、それは、｣


なんて冗談を話していると吉田さんが｢ちょっと｣と言って私の腕をとって直たちと距離をとる


｢最近毛塚とどうなの｣


と声をひそめて聞いてきた


｢…本人に聞けばいいじゃないですか｣


｢いや、ほら、恋バナとかするタイプでもないじゃん毛塚｣


｢そうですか？｣


｢でもAちゃんの家に行った次の日は何となくわかる。機嫌がいい｣


吉田さんのその言葉に嬉しくなる


｢本当ですか？｣


｢うん。表情とか、あとはにおいとか｣


｢…気持ち悪いんですけど｣


そう言って吉田さんに白い目を向ける


茂木side


吉田さんがAを連れてちょっと遠くへ行ってしまったため、俺と毛塚が残される


…勘弁してよ


すげー気まずいんだけど


ここで離れるのもあれだし、かと言って世間話するような仲でもないし…


と考えながらちらっと毛塚の様子を伺うと俺の方を見ていた


｢あのさ｣


｢…な、なに？｣


毛塚の方から話しかけてきたため少し動揺する


｢あんまり俺の彼女自主練に付き合わせないでくれる？｣


｢え？｣


｢日曜日｣


｢あ、いや、それは｣


｢Aは俺の彼女だから｣


そう言って毛塚は歩き出した


すると後ろの方から｢あ、毛塚待って！じゃあAちゃんまたね！茂木も！｣という声が聞こえて、吉田さんが毛塚のあとを追う


俺はついでかよ


｢なんだろ、吉田さんのあの後輩感｣


俺の隣に来たAが笑いながらそう呟いた

3-5→←3-3

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す