陸王

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｢熊谷シティマラソンに向けてトレーニングをするアジア工業の毛塚選手に密着しました｣


ある日の朝、会社に行く準備をしていると、テレビからそんな言葉が聞こえてきて思わず足を止める


｢あっ録画録画｣


慌てて録画を開始すると、ストレッチをしたりトラックを走ったりする直が映し出されていた


テレビに映っている直と、今日は朝練がないからといまだにベッドの中で眠っている直を見比べて笑をこぼす


｢全然違う…。ちょっと口開いてるし｣


そう言ってほっぺをつつくと1度眉間に皺を寄せ、ゆっくりと目を開けた


｢あ、ごめん。起こしちゃった？｣


｢いや、そろそろ起きる時間。おはよう｣


｢おはよ｣


｢もう出る？｣


｢うん。朝ごはん作ってあるから食べてね｣


｢ありがと｣


玄関に向かうと直はボサボサの頭で欠伸をしながら私のあとをついてくる


靴を履いて直と向き合うと｢私はこっちの直の方が好きだな｣と呟く


｢なんの話？｣


そう言って首を傾げる直に笑って


｢なんでもない。こっちの話｣


と言いながら直の寝癖を直す


｢じゃあ行ってきます｣


｢行ってらっしゃい｣


その日の練習後、ストレッチをしたりしてるみんなを尻目に裕人は走り続けていた


｢あいつまだやってんのか？おい茂木！もうそのへんにしてあがれ！｣


そんな監督の言葉を制するように裕人は片手を挙げ、走り続ける


｢新しい走法がしっくりこないみたいなんです｣


そう言ってトレーニング中のメモを見返す


｢ミッドフット着地…｣


｢あの野郎…あんな走り方じゃいつまた痛めるかわからんぞ｣


｢じっとしてられないんだと思います。ニュース見ちゃったから｣


｢ニュース？｣


｢取り上げられてたんすよ。熊谷シティマラソンに向けてトレーニングする毛塚の様子が｣


｢あぁ…｣


｢Aちゃんも見た？｣


｢はい｣


その本人と一緒に過ごしてました。なんて言葉は言えるはずもなく飲み込む


｢社内の女の子が毛塚選手イケメンー！とか私は茂木くん派ー！とか話してて、俺の前でだよ！？｣


｢平瀬さんもイケメンすよ｣


｢ここまで心こもってないAちゃん初めて見た｣

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