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『どう、したの…?』




俺の声に反応し、ゆっくりと 俺に視線を移す薮。




一瞬 くちびるを開きかけたが、




すぐに 手で口元を覆い その場にしゃがみこんだ。





『、やぶっ!?』




突然の出来事に 俺は あわてて薮の肩をつかむと




その肩は、いや、身体は ガタガタ震えていて、




『どうしたの?体調悪いの?』




はじめて見る 薮の姿に




俺は 何を どうすればいいのか分からず、




ひたすら 薮の背中をさすり、薮の顔をのぞきこむ。




しかし




薮は 何も答えず 黙ったままで、




『ねぇ、ほんとに大丈夫?』



「っ…」




『ねぇ、や…』






気づく。





薮が しゃがんでいるのではなく、ひざまずいていることに。





『、』




俺は 思わず手を止め、




薮から 一歩はなれた。





『やぶ…』





気配で 俺が離れたことに気づいたのだろう。





薮は 口元を押さえていた手を 床につくと、








「伊野尾。俺、結婚する」








ごつん、






床に おでこを押し当てた。







『は…?』



「この前の 親父の会社のパーティで、取引先の社長の娘が 俺のこと気に入ったらしくて、"俺と結婚したい"って。

大口の取引先だから、親父 喜んで、知らない間に話 進められてて…」




薮の か細い声と、



時折 聞こえる ごつん、という音。




耳には 入ってくるのに、



こころが 止まっているんだろう。




内容が まったく理解できない。






なに?




なんのはなし?




なにが?




なにを?




なにと?






「…だから 俺、半年後に 結婚する」







どうして?








『はは、ははははははっ…』





やっと こころが動き出したとき、





一番最初に 出てきた感情は





"はずかしい"





だった。





勝手に 薮の奥さん気取りをしていた自分が



はずかしくて、はずかしくて、しかたなかった。





男なのに。俺も薮も。




奥さんになんか、なれるはずないのに。






『はっはっはっはっはっ…』




「いのお…」




『もう一回 言ってよ。やぶ』





俺の言葉に 顔を上げた薮。




その ほほには 涙のあとが いくつもあって、






…泣きたいのは こっちだよ






それが、俺に 怒りの火をつけた。





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3→←9ヶ月前



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作者名:本田 | 作成日時:2017年10月9日 1時

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