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「ふっ。なに、泣いてんだよ」






ふわりと 俺の涙をぬぐう指先。





やさしいのに、その手つきは どこか妖しくて、





俺に 癒しだけではなく、熱をも与えてくれる。






そう、これ。







「なんだよ、そんなにみつめて」




『こうたが、ていおう、だから…』






その表情、その行動、





それは、まさに 薮の陰あだ名"帝王"そのもので、






「は?」




『こうたが、帝王だから、うれしいのっ!!』






久々に見た その姿に、






本当に、薮は 自由になれたんだ、と 実感した。








「なんだよ、人を悪者みたいに…」





愚痴るように つぶやき、俺を抱きしめる薮。







俺に触れる肌は あたたかくて、やさしくて、あまくて、






こんなに 淫らな行為をしているのに




とても こころを落ち着かせてくれる。








きもちいい




うれしい




いとしい








あぁ…、




最初から こうやって、抱きあっていれば よかったのかもしれない。







『間違ってた、かな?』




「そんなことない」






俺の言いたいことが分かるのか、





薮は 抱きしめる力を強くし、





俺を 腕の中に閉じ込める。







「あれで良かったんだよ。快感で頭マヒさせてないと、俺、壊れてた」




『うん…』




「でも、慧が段々、娼婦みたいになっていくのは、見ててツラかった」




『うん…』




「ツラかったけど、嫌だったけど、俺、自分のことで いっぱい いっぱいだったから…っ」






ぽろぽろと 俺の髪をぬらす涙。







あぁ、やめて。泣かないで。





薮は 帝王みたいに、堂々としてればいいの。







『うん…。わかってるから』




"泣かないで…" と つぶやくと、





「あぁ」





大きなてのひらに やさしく頭をなでられ





そのぬくもりに、





俺は ぎゅう、と 胸元でこぶしを握り締めた。









うん、間違ってなかった。





こんなふうに 抱きあってたら、




現実に戻った時





くやしくて、せつなくて、くるしくて、





こころが壊れてたに違いない。







でももう、"現実"に戻る必要なんてないから…。








『こうた。今日は朝まで、こうしてて…』







俺は 薮を見上げ、





薮に気づかれないよう 自分の胸を たたいた。









カラン、と 胃の中で 音が鳴った気がしたが、






「けい、あいしてる」






その音は、





愛の言葉に かき消され、聞こえなかった。







fin

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作者名:本田 | 作成日時:2017年10月9日 1時

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